クリス・ミラー
世界最先端の半導体生産をTSMCが独占するまで
モリス・チャンはデジタル時代のグーテンベルクになろうとした。だが、蓋を開けてみれば、グーテンベルクをはるかに上回る有力者へとのし上がっていた。当時の人々には知る由もなかったが、チャン、TSMC、そして台湾は、世界最先端の半導体生産を独り占めする道を着々と歩んでいたのである。

世界最大手の半導体メーカーTSMCはこうして生まれた
1985年、台湾の有力な大臣である李國鼎(りこくてい)は、モリス・チャンを台湾の半導体産業のリーダーとして雇い入れる。「ぜひ台湾で半導体産業を振興したい」と彼はチャンに告げた。「どれくらいの額があれば足りるか教えてくれ」

米中「半導体戦争」でアメリカが出遅れた原因? オバマ政権下のお粗末なテクノロジー政策
アメリカ政府の関係者の大半は、半導体がなんたるかもほとんど知らない有様だった。そのせいで、半導体に関するオバマ政権の動きは鈍重だった、と関係者のひとりは振り返る。単純に、半導体を重大問題のひとつとしてとらえる政府高官が少なかったからだ。

半導体が不足した原因は、コロナ後の「需要の急増」にあった
確かに、供給の混乱もあるにはあった。たとえば、COVID-19によるマレーシアのロックダウンで、現地の半導体パッケージング業務に支障が生じたのは事実だ。しかし、調査会社のICインサイツによると、2021年の世界全体の半導体デバイスの生産量は、1.1兆個以上と過去最高だった。2020年比で13%増だ。つまり、半導体不足は、供給の問題というより、主に需要の増加の問題だったのである。

【半導体戦争】中国のAI活用力はすでにアメリカと並んでいる可能性がある
AIシステムに関していえば、中国の能力はまぎれもなく驚異的だ。AIを活用するには、データ、アルゴリズム、計算能力の「3本柱」が必要になる。計算能力を除けば、中国の能力はすでにアメリカと並んでいる可能性もある。

半導体の供給が危ぶまれている地政学的な理由とは
現代において、何よりも半導体供給を危機に追いやる激震といえば、地殻プレート同士の衝突ではなく、むしろ大国同士の衝突だ。優位性をめぐって争い合う米中政府は、コンピューティングの未来を手中に収めるべく腐心している。そして、その未来というのは、たったひとつの小島に恐ろしいくらい依存しているのである。

「半導体」が米中対立の命運を決めるといえる理由
アメリカは、シリコンバレーの名前の由来となったシリコン・チップを現時点ではまだ支配しているが、近年、その地位は危険なほど弱まっている。現在、中国は半導体の輸入に、石油の輸入以上の額を毎年つぎ込んでいる状況だ。現在の米中対立の命運を決するのは、おそらく計算能力(コンピューティング・パワー)と見ていいだろう。米中両政府の戦略家たちは今や、機械学習からミサイル・システム、自動運転車、武装無人機にいたるまで、先進技術には最先端のチップ(より正式な名称を使うなら、半導体または集積回路)が不可欠であることを認識している。
