NYタイムズが「映画『チャイナ・シンドローム』や『ミッション:インポッシブル』並のノンフィクション・スリラーだ」と絶賛! エコノミストが「半導体産業を理解したい人にとって本書は素晴らしい出発点になる」と激賞!! フィナンシャル・タイムズ ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー2022を受賞した超話題作、Chip Warがついに日本に上陸する。
にわかに不足が叫ばれているように、半導体はもはや汎用品ではない。著者のクリス・ミラーが指摘しているように、「半導体の数は限られており、その製造過程は目が回るほど複雑で、恐ろしいほどコストがかかる」のだ。「生産はいくつかの決定的な急所にまるまるかかって」おり、たとえばiPhoneで使われているあるプロセッサは、世界中を見回しても、「たったひとつの企業のたったひとつの建物」でしか生産できない。
もはや石油を超える世界最重要資源である半導体をめぐって、世界各国はどのような思惑を持っているのか? 今回上梓される翻訳書、『半導体戦争――世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』にて、半導体をめぐる地政学的力学、発展の歴史、技術の本質が明かされている。発売を記念し、本書の一部を特別に公開する。

【半導体戦争】中国のAI活用力はすでにアメリカと並んでいる可能性があるPhoto: Adobe Stock

中国政府がハイテク兵器開発に
走ったきっかけは「湾岸戦争」だった

 自律型の無人機の大群から、サイバー空間や電磁波上の見えない闘いまで、未来の戦争を特徴づけるのはまちがいなく計算能力だ。米軍はもはや無敗の王者ではなくなった。米軍が精密誘導ミサイルや万能センサーを武器に、世界の海と空を完全に掌握していた時代は、とっくのとうに過ぎ去った。

 1991年の湾岸戦争以降、世界各国の国防当局にこだました衝撃波と、サダム・フセインの軍を無力化したピンポイント攻撃が自国の軍に使用されることへの恐怖は、ある記述によれば、まるで「心理的な核攻撃」のように中国政府に衝撃を与えた[1]。

 その結果、湾岸戦争以降の30年間で、中国は毛沢東のローテクな人民戦争の原理を捨て、未来の戦いの鍵を握るのは先進的なセンサー、通信、計算能力であるという考え方を受け入れ、ハイテク兵器の開発に資金を湯水のごとく注ぎ込んできたのである。その中国は今、先進的な戦闘部隊に必要な計算インフラの開発を進めている。

 中国政府の目的は、単純に一つひとつのシステムでアメリカと肩を並べることではなく、アメリカの優位性を“相殺(オフセット)”できるだけの力を養うことにあった。つまり、1970年代の国防総省の概念を、アメリカに対して逆用しようというわけだ。

 実際、中国はアメリカの優位性を体系的に脅かす兵器群を配備してきた。アメリカの水上艦が戦時中に台湾海峡を通過するのを牽制し、アメリカの海軍力に待ったをかけている中国の精密誘導対艦ミサイル。戦闘時のアメリカの制空能力に引けを取らない新たな防空システム。日本からグアムまで広がる米軍基地のネットワークを脅かす長距離対地攻撃ミサイル。通信やGPS網を無効化する力を持つ衛星攻撃兵器。

 中国のサイバー戦争の能力はまだ戦時下では実証されていないが、いざ戦争になれば、中国はアメリカの軍事システム全体の機能停止を試みるだろう。一方、電磁波空間では、アメリカの通信を妨害し、監視システムを盲目にさせ、米軍が敵の検知や同盟軍との通信を行なえないようにすることも考えられる。

 すべての根底には、戦争には「情報化」だけでなく「知能化」が必要である、という中国軍界隈の信念がある。これは兵器システムに人工知能(AI)を応用することを意味する、なんともぎこちない軍事用語である。

 もちろん、計算能力は過去半世紀の戦争においても中心的な役割を果たしてきたのだが、軍事システムの支援に使える1と0の量は、数十年前と比べて桁違いに増加している。しかし、今日のアメリカがかつてとちがうのは、強力な挑戦者が目の前にいる、ということだ。

 ソ連はミサイルではアメリカに対抗できたが、バイトでは対抗できなかった。だが、中国はその両方で太刀打ちできると考えている。つまり、中国の半導体産業のたどる運命は、単に商業的な問題にとどまらない。より大量の1と0を生み出せる国が、軍事的にも大きく優位に立つのだ。

中国のAI活用力はすでに
アメリカと並んでいる可能性がある

 この計算競争の命運を分ける要因とはなんなのか? 2021年、グーグル元CEOのエリック・シュミットが委員長を務めるアメリカのテクノロジーおよび外交政策の専門家グループが、「中国はアメリカを抜いて世界のAI大国になる可能性がある」との予測を発表した[2]。

 中国指導部もそう考えているようだ。中国軍に関する専門家のエルサ・カニアの指摘によれば、人民解放軍は少なくとも10年前から「AI兵器」について語っている。これは、「敵の標的を自動的に探し、見極め、破壊するAI」を用いたシステムのことだ[3]。習近平自身も、国防上の優先課題のひとつとして、「軍の知能化の発展を加速させる」ようしきりに人民解放軍に促し続けている。

 軍事AIと聞くと、殺戮ロボットのようなものをイメージしがちだが、機械学習を軍事システムの改善に活かせる分野は数多くある。機械の修理が必要なタイミングを学習する予知保全アルゴリズムは、すでに飛行機や艦船が空や海を航行し続けるのに役立っているし、AI対応の潜水艦ソナーや衛星画像システムはいっそう正確に脅威を特定できるようになっている。

 新しい兵器システムは、よりすばやく設計できるようになり、爆弾やミサイルは特に移動する標的をより正確に狙い撃ちできるようになった。陸海空の自律的な車両、潜水艦、航空機などは、すでに自動で操縦を行ない、敵を特定し、破壊できるようになりつつある。

 そのすべてが「AI兵器」という語句からイメージするほど革命的なわけではない。たとえば、自動誘導式のファイア・アンド・フォーゲット・ミサイル〔自動で標的を追尾する能力を持つため発射(ファイア)すればあとは忘れる(フォーゲット)だけでよいミサイル。撃ちっ放しミサイルとも〕は数十年前からあった。しかし、兵器がどんどんスマートで自律的になるにつれ、計算能力の需要は増加する一方だ。

 とはいえ、人工知能によって強化された兵器システムを開発し、配備する競争に、中国が勝利する保証はない。そのひとつの理由は、この“競争”が単一の技術をめぐる競争ではなく、複雑なシステムをめぐる競争だからだ。冷戦中の軍拡競争に勝ったのは、最初に人工衛星を宇宙に打ち上げた国ではない、という事実を思い出してほしい。

 しかし、AIシステムに関していえば、中国の能力はまぎれもなく驚異的だ。ジョージタウン大学のベン・ブキャナンの指摘によると、AIを活用するには、データ、アルゴリズム、計算能力の「3本柱」が必要になる[4]。計算能力を除けば、中国の能力はすでにアメリカと並んでいる可能性もある


[1] Liu Zhen, “China-US Rivalry: How the Gulf War Sparked Beijing’s Military Revolution,” South China Morning Post, January 18, 2021. また、Harlan W. Jencks, “Chinese Evaluations of ‘Desert Storm’: Implications for PRC Security,” Journal of East Asian Affairs 6, No. 2(Summer/ Fall 1992): 447-477も参照。
[2] “Final Report,” National Security Commission on Artificial Intelligence, p. 25.
[3] Elsa B. Kania, “ ‘AI Weapons’ in China’s Military Innovation,” Global China, Brookings Institution, April 2020.
[4] Ben Buchanan, “The AI Triad and What It Means for National Security Strategy,” Center for Security and Emerging Technology, August 2020.
[5] Matt Sheehan, “Much Ado About Data: How America and China Stack Up,” MacroPolo, July 16, 2019, https://macropolo.org/ai-data-us-china/?rp=e.

(本記事は、『半導体戦争――世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』から一部を転載しています)