トランプ氏のアメリカ大統領当選が決まった直後から顕著となった株価の上昇。日米でトランプ相場が到来したが、2017年以降の日経平均株価は一進一退の状態だ。為替が円高傾向となり、トランプ政権に失望する声も高まっている。さらに直近では朝鮮半島やシリアを中心とした政情不安もあり、NYダウにも不透明感が漂っている。
そうしたなかで今後の相場はどう動くのか? 「トランプと仕事をした投資銀行家」ぐっちーこと山口正洋さんと、「トランプ相場を的中させた」マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆さんという気鋭の2人がズバリ今後の株式市場の行方を先読みする!(4月21日発売のダイヤモンド・ザイ6月号より先出し公開!)
12月半ばで日本株のトランプ相場は終わった!
威勢がいいだけで何も決められないトランプ大統領
──昨秋からトランプ相場と呼ばれる株価の上昇が続いてきましたが、足元で変調の兆しがうかがえますね。
トランプと仕事をした投資銀行家。モルガン・スタンレーなどを経てブティックの投資銀行を開設。著書多数。
ぐっちー 実は、1980年代に仕事上でトランプ氏と関わったことがあって、とても実行力のある人物だという印象を受けました。ところが、3月24日にトランプ政権はオバマケアの代替法案可決に失敗してしまった。共和党が過半数を握っている議会において、公約の目玉を通せなかったのは大きな痛手でしたね。
広木 オバマケア撤廃でいきなりつまずいたことで、大型減税やインフラ投資などが先送りされかねないとの懸念が台頭してきましたからね。
ぐっちー 8年前にオバマ氏が大統領に就任した際には、矢継ぎ早に法案を可決させました。2008年9月のリーマンショックで金融危機が深刻化していたとはいえ、オバマ氏率いる民主党は議会で過半数を割っていた。そのことと対比され、トランプ氏は威勢だけはいいが、何も決められないとの烙印を押されかねません。
広木 大きく膨らんでいたトランプ氏への期待が急速にしぼんだ格好ですね。ただ、米国株と違って日本株におけるトランプ相場は、実質的に1ヵ月ちょっとで早々と終わっているんですよ。
トランプ大統領の誕生決定直後から日米の金利差が拡大。そのためドル高・円安が加速しました。ですが、日米の金利差は12月15日にはピークをつけて、円安トレンドが終焉。以降の日経平均株価は2万円に到達できずに頭打ちとなっています。再びトランプ大統領の政策への期待が高まる可能性もありますが、少なくともトランプ相場の第1フェーズはもう終わっていると考えるのが賢明でしょうね。
若年労働人口も増加し、米国景気は絶好調!
米企業は2ケタ増益、良好な経済指標も続々
──だとすれば、トランプ氏が有言実行を果たすまで、相場は軟調だということでしょうか?
アベノミクス相場を的中させた人気ストラテジスト。外資系運用会社やヘッジファンドでファンドマネジャーを歴任。2010年より現職。
広木 実際のところ、トランプ氏が打つ政策への期待感だけで株価が上昇したわけではありません。米国の景気がいいから、相場がそのことを反映してきたのです。
ぐっちー その点に関しては、私も大いに納得。失業率などいろいろな指標を見ても、米国経済に対して、ものすごく強気のスタンスです。
広木 トムソンロイターによると、S&P500採用銘柄の利益の伸びは2016年第4四半期が7.7%となった模様です(2月23日時点)。以降、四半期ごとに2ケタ増益が続く見通しで、米国企業の業績回復が株高の背景にあるのは間違いありません。
ぐっちー 米国は若年労働人口が増加。放っておいても経済が成長します。私は友人と米国でレストランチェーンを共同経営していますが、それは売上げが自然と右肩上がりで拡大していくからです。
広木 3月の消費者信頼感指数が17年ぶりの高水準を記録するなど、「○年ぶり」と表現される良好な経済指標の発表が続いており、足元の米国経済もまさに絶好調ですね。
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日本は本当に世界景気敏感株!?
最近は株価の“為替離れ”が進んでいる!
──米国経済の活況は日本経済にも好影響を及ぼしそうですが、その一方で為替がやや円高気味ですね。
広木 ドル/円と日本株は相関性が高いと言われていますが、局所的な動きは別として、株価の“為替離れ”が進んでいます。その背景にあるのは、上場企業の業績改善です。2017年3月期の業績は2期ぶりに最高益を更新する見通しで、円高の影響で売上高こそ減るものの、高付加価値の製品・サービスで採算が改善します。円高という逆風を跳ね返し、企業の稼ぐ力が高まっている格好です。
ぐっちー ただし、日本には約3600社の上場企業が存在するものの、その大半がローカル(内需系)なんですね。そういった企業もぬるま湯の国内にとどまっていないで世界に攻めていかないと、知らぬ間に茹でガエルになってしまいますよ。
広木 少子高齢化が進む日本で、もはや経済の自律的回復を望むのは難しい。すでに今日の日本経済を支えているのは、世界的な景気拡大です。言い換えれば、もっぱら海外で稼ぐグローバル企業が圧倒的に強くなっていくことを意味しています。
ぐっちー 岩手で学生を教えているんですが、優秀な子は公務員になっちゃうんですよ。市役所とか。本当にもったいないと思いますよ。
広木 なるほど。とはいえ、私のメインシナリオは、2017年の日本株に強気。2018年3月期の業績を織り込み始めれば、日経平均株価は2万円を目指す展開になるはずです。アナリストによる日経平均株価の予想EPSの平均値は1460円。PER13.7倍でも2万円で、年末には2万2000円も視界に入ります。
「北朝鮮」と「米国の金融政策」、2つのリスクに注意せよ!
──注視すべきリスク要因としては、どんなものが挙げられますか?
広木 欧州の選挙がショックを与えても一過性のものでしょうし、中国経済も安全圏にあります。
ぐっちー ただ、何かの拍子に暴落するというアクシデントは相場につきものです。先々でも待ち構えているでしょうし、私なら大きく下げたらすかさず米国株を買うスタンスで臨みます。
広木 依然として米国金利は歴史的に低水準。暴落してもリーマンショックのように完全に市場がクラッシュすることはないはずです。
ぐっちー それよりも、私が気掛かりなのは戦争。北朝鮮が切羽詰まって海以外にミサイルを放つ可能性は十分に考えられ、米国内ではその前に先制攻撃すべきだという議論も出てきています。
広木 一方で、仮に短期で日本の地政学的リスクが解消されるなら、日本株はいったん暴落したとしても間違いなく株価は爆騰しますね。一方、米国の金融政策については注視する必要があります。ただし、利上げではなく、4兆5000億ドルに膨らんだFRB(連邦準備理事会)のバランスシートの縮小開始です。
ぐっちー FRBのイエレン議長の任期は2018年2月まで。すごく責任感の強い人物であるだけに、在任中にバランスシート縮小を決意する確率は50%以上でしょう。FOMC(連邦公開市場委員会)の議事録で言及していますし、他のスピーチでもさりげなくほのめかして伏線を張っているようにうかがえます。
広木 もはや打つ手が残されていないものの、2018年の4月には黒田日銀総裁も任期満了となります。長短金利の操作を行なう「イールドカーブ・コントロール」についての政策変更はあるかもしれません。それらのリスクを念頭に、暴落を待って仕込んでおきたいですね。
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