チャートではわからない相場解説
2017年8月30日公開(2017年12月6日更新)
バックナンバー 著者・コラム紹介
岡村友哉

北朝鮮のミサイル発射時に東京市場が開いていたら
日経平均は大暴落していた! ミサイル発射直後に
先物を売り叩いた投機筋が失敗した理由とは?

 8月29日、北朝鮮が中距離弾道ミサイルを発射し、日本の上空を通過しました。その朝は、これまでとはレベルの違う緊張感が日本中を駆け巡ったはずです。「緊急警報システム『Jアラート』は、テレビを通じてこのように発動するのか!」と筆者は初めて知りました。

 臨時記者会見において、菅官房長官は、Jアラートなどを通じて速やかに国民に情報発信したと話しました。筆者は、早朝6時過ぎ、いつものようにテレビ東京の『モーニングサテライト』を観ていたのですが、急にJアラートの黒い画面に切り替わり、「ミサイル発射。ミサイル発射」「頑丈な建物や地下に避難してください」と表示されました。

 もし、対象地域に自分の住まいがあったなら、すぐに着替え、家族を起こし、頑丈な建物(小学校とか?)や地下(筆者の家の近所には無いです)に避難するよう動く必要がありますよね。ただ、筆者は動けませんでした。テレビの画面に釘付けになっていました。

 これは、筆者だけではないと思います。現実感の無い事態が急に起きたとき、合理的に判断して動くことは難しいのではないでしょうか?

CMEの日経平均先物(円建て)は
一時1万9045円に暴落したがすぐに買い戻される

 北朝鮮リスクという意味では、今年に入って最大の警戒レベルで昨日の東京市場は始まったと思います。ただ、終わってみれば、8月29日の日経平均株価は0.45%安、TOPIX(東証株価指数)はわずか0.15%安。後場に日銀のETF買いが入ったこともありますが、軽微な下げに終わりました。投資家は冷静だった……と言えるでしょうか?

■日経平均株価チャート/日足・3カ月
日経平均株価チャート/日足・3カ月(出典:SBI証券公式サイト)
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 今日の実態としては、「多くの投資家が冷静で、パニックにならなかった」のではなく、「多くの投資家が動けなかった」のではないかと思われます。Jアラートを初めて見た瞬間と同じで、「どう動くのが合理的なのか?」を東京時間内で判断しようがなかったのではないでしょうか。

 これだけの有事にあって、東証1部の売買代金が平時の薄商いと大差ない1兆8160億円にとどまったことにも、それは表れています。

 多くの日本の投資家が能動的には動けず、その結果として軽微な下げに終わったのは、個人的には、今回のミサイル発射が早朝だったからに過ぎないと思っています。もし、Jアラートの警報音が東京市場の立会時間内に鳴っていたら、小幅安で難を逃れられたのでしょうか?

 この日の大証の日経平均先物の安値は、開始直後8時45分につけた1万9260円。ただ、ミサイル発射が伝わったあと、最初に取引されたCMEの日経平均先物(円建て)は、7時33分に安値1万9045円というショッキングな値段を付けています

■CME日経平均先物(円建)チャート/15分足・2日
CME日経平均先物(円建)チャート/15分足・2日(出典:SBI証券公式サイト)
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 とはいえ、これは参加者の限られるCMEの先物、かつ参加者の限られる時間帯ということもあり、ほんの少数の投機筋による売り仕掛け(アルゴリズム?)で付けた値段に過ぎません。

 なぜ、そのようなことになったのか? ポイントは、ミサイルが発射された時間に、東証の現物市場はもちろん、売買の多い大証の先物市場も開いていなかったということです。

 1万9045円まで売り叩いた投資家は、さらに下値を売る投資家を誘い出し、結果的にさらに下がれば利益が出せます。ただ、この時間帯に売りで追随する投資家はいませんでした。ミサイルに関する情報も、東京市場が始まる前にある程度出ていましたので、結局「ファーストアクションで売り向かった投機筋が慌てて買い戻したことにより、下げ幅を縮めた」と考えるのが自然です。

 いわゆる自作自演。つまり、売った人の買い戻しが中心と想像されるため、今日下げ渋ったことにとくに意味はないと考えられます

ミサイル発射が東京市場の立会時間内だったら
下げが加速し大暴落した可能性も

 では、今回のJアラートが、東京市場の立会時間内に発動していたらどうなったでしょうか?

 CMEと違って東証の現物市場は板が厚いので、簡単に1万9045円まで下がるとは思えませんが、仮にこの水準まで下げてきたら、受動的な売り(ストップロス)がかなり加速したのではないかと言えます。

 日経平均株価のオプションのプット(売る権利)の建玉が、コール(買う権利)の建玉の何倍あるかを示す「プットコールレシオ」は、8月28日時点で今年最高の1.41倍でした。プットの建玉がコールの建玉より多いわけですが、年初の1.21倍からジワジワ増加し、現在が今年最高となっています。

 プットが多いというと、「プット(売る権利)を買う弱気な投資家が多くなっている」と解釈されるかもしれませんが、建玉となると理解の仕方が異なります。

 建玉の増加は、プットの売りが増加している場合が一般的です。つまり、「日経平均株価が1万9000円を割れることはないだろう」「ましてや1万8500円を割り込むことなどあり得ないだろう」といった相場感でポジションを組んだ投資家が増え続けていた、ということを示しています。

 これは、日銀のETF買いによる下支えの威力を投資家が認めたことなどが影響しています。第1四半期の好決算企業が多く、バリュエーション的にも安心感が生まれてきたことも背景かもしれません。

 そうしたポジションが積み上がった状態にあるなか、投機筋の仕掛け売りがきっかけとしても、指数が急落したらどうなるでしょう? ストップロスでプットの買い戻し(=先物売り)が増加し、下げを加速させる原動力になります。

 今回、その事態を避けられたのは、北朝鮮のミサイル発射が「早朝だったから」以外に説明しようがないのです。発射直後、Jアラートを目の当たりにしたとき、合理的な判断で冷静に押し目買いに回る日本の投資家が急増するとは考えにくいように思います。

過去を振り返ってみても
日本株は北朝鮮リスクに対して弱い

 北朝鮮リスクは、海外の投資家にとって、格好の日経平均株価売りの口実となっています。

 東証1部の空売り比率(売り約定分に占める空売りの比率)の今年最高値は、4月6日の45.30%です。この日空売りが急増した理由は、前日の4月5日に北朝鮮が挑発的ミサイル発射を行ったため。そして、先週8月21日に今年2番目の43.25%という高い数値を付けましたが、これも米韓合同軍事演習の開始のタイミングでした。

 つまり、日本株は北朝鮮リスクに対して弱いのです

 その空売り比率が最高値を付けた4月6日の場合、底入れしたのは4月17日でした。きっかけは、警戒されていた北朝鮮の記念日(このときは、4月15日に行われた金日成生誕105年の軍事パレード)を通過したことです。

 今回の北朝鮮リスクも、今日下げ渋ったからといって大丈夫だと判断できるものではありません。今回、9月9日の建国記念日に警戒があるなか、北朝鮮リスクで投機の売りが作られているとすれば、その反対売買は、イベント通過をきっかけに強まるものと想定されます。

 それまでは、リスクをとるべき場面ではないように思います。200日移動平均線(1万9321円)まで調整したとか、テクニカル的な節目で投資判断をするのは止めた方がいいでしょう

防衛関連株に買いが殺到したが、
PTSではなぜか前日夜から急騰していた?

 最後に、お決まりの個別株物色ですが、防衛関連株の石川製作所(6208)細谷火工(4274)に朝から買いが殺到しました。石川製作所は前日比262円高の1684円(終値は1505円)、細谷火工は同270円高の1395円(終値は1233円)と急騰して始まりました。

 ただ奇妙なのは、ミサイル発射は早朝なのに前日の夜の段階で急騰していたこと。SBIジャパンネクストのPTS(私設取引)における終値は、石川製作所が8月28日23時58分の1577円、細谷火工が19時27分の1425円でした。事前に危機を察知した投資家がいたのでしょうか?

 なぜ事前に急騰していたのか非常に謎ですが、突然警報が鳴るJアラートより、PTSで防衛関連株が謎の上昇をしていたとき、「何か起きるのかもしれない?」と心の準備をしておくのも手じゃないかと思いました。

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