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会計からバランスシートが消える!  利益が出ても資本は減少!? 黒字企業を待ち受ける赤字転落の洗礼 国際会計基準(IFRS)の衝撃 第5弾

【第11回】 2012年6月14日公開(2025年3月25日更新)
ザイ・オンライン編集部
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 利益はでているのに、純資産は減ってしまう。本来はありえないことが起こり始めている。

 利益のうち、株主に支払った配当金などを除いた残りは、企業の内部に留保され、その金額だけ純資産は増加する。利益が伸び、それに伴い純資産も増加し財務内容も充実する。最も自然な企業の成長のパターンだ。

 しかし、以下の住友化学(4005)の例を見てほしい。

 図中赤枠で示したが、前期末(23年3月期)の純資産は7588億円、今期(24年3月期)の利益は55億円だ。

国際基準の洗礼、見かけの利益だけでは純資産は減少する

 本来なら今期末(24年3月期)の純資産は内部留保された利益の分、増えているはずだ。しかし、実際には7209億円と、379億円、なんと5%近くも減ってしまっている。

 なぜか?

 これを単純化した図で示すと、次のようになる。

 住友化学は当期利益はプラス、つまり55億円の黒字だ。

 しかし、その一方でこの1年間に、株価の下落による保有株式の評価損や、円高に伴う海外資産などの価値が下落が、多額発生してしまった。

評価損は純資産を直撃する

 こうした評価損は当期の損益には反映されないが、純資産に対してはその発生額を反映させなければならない。すなわち、純資産はその分減少する。

 こうした評価損をも考慮した利益を国際会計基準(IFRS)では「包括利益」という。

 包括利益は、国際会計基準では当期利益と並んで最も重要視される利益概念だ。

 では、住友化学の評価損なども含めた損益はどのようになっているのだろうか。

 次の図を見てほしい。

 営業利益、経常利益、当期利益はそれぞれ606億円、607億円、55億円。これに対して、評価損など計上されていない損失の発生額が160億円に達している。

 その結果、評価損反映後の包括損益は104億円の大幅赤字となっている。

 住友化学は、日本の当期損益は黒字でも、世界基準の包括損益では大赤字というわけだ。

利益操作を排除して透明度の高い利益に

 実現されていない、すなわち決済がなされていない損益を、その期の損益に反映させるかどうかに関して、かつて賛否両論が戦わされた。

 反対派いわく。「株価が下落しても、いずれ上昇に転じる可能性もある」。さらに「いまは円高でも、来年は円安になるかもしれない」 ---- だから評価損は当期の利益に反映させる必要はない、と。

 果たしてそうだろうか?

 ポイントの第1点は、評価損を利益に反映させる・させないにかかわらず、少なくとも評価損の発生額を開示しなければならないということだ。

 開示されなければ、それは隠れた損失、見えないリスクとなってしまう。

  例えば、住友化学のように当期利益の3倍にも達する評価損が発生していても、投資家はそれを知ることができなければ、正しい投資判断を行うための情報を獲得できていないことになる。これは改善されなければならない。

 第2点目は、かつては日本では、本業での利益が思うようにあがらなかったとき、隠し持っていた評価益の出ている株式などを売却して、利益を水増しするといったことが当たり前に行われていた。評価損益が経営者の恣意によって都合よく、利益操作の道具に使われていたわけだ。

 こうした問題点を改善するため、国際会計基準では評価損も含めた包括利益を重視している。

 ここで日本基準と国際会計基準双方の開示する利益を比較すると、次のようになる。

営業利益、特別損益は廃止、新たに包括利益が加わる

 日本では慣れ親しんだ営業利益は廃止。経常利益は国際会計基準の税引前利益がほぼこれに相当する。また特別利益、特別損失も廃止となる。

 また日本基準では利益は当期利益までだが、国際会計基準ではこれに加えて包括利益も開示しなければならない。

 同時に、これら損益を記載する「損益計算書」、さらには資産や負債を記載し、財務指標の代名詞的存在だった「バランスシート(貸借対照表)」という名称も消滅する。

 新名称は、以下のとおりだ。

バランスシートはフィナンシャルポジション計算書に改名

 貸借対照表(バランスシート、B/S)は、財政状態計算書(Statement of Financial Position、F/P)に、損益計算書(Profit and Loss Statement、P/L)は、包括利益計算書(Statement of Comprehensive Income、C/I)に呼び方が変わる。

 特に英文表記が、なんともわかりづらく、できれば勘弁して貰いたいところだが、日本を除く世界はB/S、P/Lではなく、財政状態計算書=F/P、包括利益計算書=C/Iで、動き始めてしまっている。

 日本と国際会計基準の考え方での大きな違いは、日本はバランスシートにおいて「資産の総額と、負債と純資産の合計額は一致、バランスする」という考え方であった。

 これに対して、国際会計基準では、「資産と負債は一致せず、両者の差額が資本(持分)である」という考え方を採る。そして、前期と今期の資本の増減額が利益である、としていることが大きな違いだ。

前期と今期の資本の増減額が利益という新発想

 言い換えれば、フローの包括利益計算書と同時に、財政状態計算書からも前・今期の資本の増減額として利益が算出され、それぞれの利益は必ず一致するということだ。これを資産・負債アプローチという。

 この考え方では、前記の住友化学の場合、国際会計基準の損益額は日本基準の当期利益55億円の黒字ではなく、純資産の前記と今期の減少額である379億円の赤字となるわけだ。

 理念的な考え方の相違などは、さして重要ではない。

 注目点は、国際会計基準では評価損のような見えないリスクを隠し通すことはできないことだ。

 すなわち、見かけ上は利益が出ていても、評価損がそれ以上の多額に膨らんだ場合、純資産、ひいては一株純資産は減少し、損益計算上も赤字と判断される。

 日本企業の国際会計基準採用の動きが進むなか、見えない評価損や、それを反映後の真の利益額は、投資家にとってはずすことのできないチャック項目だ。

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