伊藤忠商事が商社文化の“輸出”に乗り出した。
2009年度末までに、本社のすべての営業部門に、外国籍社員の受け入れを義務付けたのだ。優秀な現地採用社員を東京に呼び寄せ、2年程度かけて総合商社のビジネス手法や考え方、社風を学ばせる。
独特の商社文化を身に付けた外国籍社員を現地に送り込むことで、事業開拓を加速させる考えだ。
本社の21の営業部門と17の職能部が対象で、海外法人の幹部候補とされる社員を中心に、最低1人以上の外国籍社員を受け入れる。同社は2007年度から海外法人の現地採用社員を受け入れ始めたが、全体の7割が実施していないなど、部門ごとに偏りがあったため義務化に踏み切った。
これまでも年間約150人の現地採用社員を本社に呼び、短期の研修は実施していたが、「商社の文化、考えは、実際に働いてみないと理解できない」(垣見俊之世界人材・開発室長)と判断。出向者には、本社社員と同様に通常の業務を任せるという。
外国籍社員の育成とともに、英語を使用する機会を増やし、社内における英語公用化の推進にも役立てる考えだ。
同社は2007年度、ニューヨーク、ロンドン、上海などの海外主要拠点に「世界人材・開発センター」を開設。現地幹部の育成を進めてきたが、受け入れ義務化で、この流れをさらに加速させる。
工場の海外展開が当たり前となったメーカーなどは、一足先に現地社員の幹部登用を進めてきた。これに対し、商社マンはゼロからビジネスを立ち上げることが求められることもあって、遅れをとっていたのが実情だ。
総合商社は国内で「グルーバル企業」のイメージを持たれてはいるが、実際のところは、海外法人のトップのほとんどを本社から派遣された駐在員が占めるなど、人材の国際化が課題となっている。
商社の役割が伝統的な仲介業務から投資事業へとシフトしていくなかで、同社は海外投資の比率を7割にまで高める戦略を打ち出している。
垣見室長は「以前は日本企業と組んで進出することが多かったが、最近は現地の企業を直接買収して、ビジネスを進めていく機会が増加している。海外での事業開拓には〝外国企業〟では限界があり、地場の文化や慣習に精通した人材を商社マンに育成する必要ある」と力を込める。今のところ、海外法人におけるマネジャー層以上の現地社員の割合は3割程度だが、2013年までに5割に増やす方針だという。
世界で類を見ない総合商社という独特のビジネスと文化を外国籍社員に普及させることができれば、その波及効果は決して小さくない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)