長期化する経済不況のなか、「終身雇用を希望する」若者が増加している。しかし、彼らが幻想を抱いている終身雇用や年功序列は、日本の経済状況や人口構造からしてもはや維持できるものではない。なぜ終身雇用は問題なのか。そして、日本の雇用にどのような悪影響を及ぼしてきたのか。維持できないのならば、日本企業は今後どのような雇用制度や人事制度を導入していくべきなのか。大ベストセラー『若者はなぜ3年で辞めるのか』の著者で人事コンサルタントの城繁幸氏に「解」を示してもらった。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子、撮影/宇佐見利明)

「フリーターになったら一生が終わる」
“安定”を求める若者が増殖

――“就職氷河期”といわれるなか、多くの新卒者が大企業への就職や終身雇用を望んでいるという。彼らは“安定”を求めてこうした志向を持つようだが、以前と比べて就職観が保守化しているのはなぜだろうか?

じょう・しげゆき/人事コンサルティング会社「Joe's Labo」代表取締役。1973年山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通に入社。人事部門にて新人事制度導入直後からその運営に携わり、同社退社後に刊行した『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』、『日本型「成果主義」の可能性」で話題に。『若者はなぜ3年で辞めるのか』では若者が職場で感じる閉塞感の原因を探り、大ベストセラーとなる。雇用問題のスペシャリストとした各メディアで積極的な発言を続ける。最近では、『7割は課長にさえなれません―終身雇用の幻想』が好評発売中。

 そもそも“安定”という考え方は、「どれほど就職に期待値を持っているか」に左右される。世代の平均である年功序列賃金を求める人は、期待値がそれ以下であり、大企業を志向する傾向がある。一方、それ以上の期待値の人は年功序列を忌避する傾向がある。

 ところが、厚生労働省のサラリーマン賃金統計からも明らかなように、年功序列賃金は下がり続けており、今後も間違いなく下がる。そういう状況でありながら、それを求める新卒者が増えているのは、期待値の高い人間の受け皿が日本にはないからだ。

 それは、日本社会が辿ってきた“失った20年”を振り返るとよくわかる。メディアが発表する「就職ランキング」は、1990年代と現在を比べると、実は同じ企業がランキングの半分以上を占めている。つまり、日本はこの20年間何も新しい産業を生み出していない。それを示すように、多くのベンチャー企業が消えていったのに対して、JAL(日本航空)などの昔ながらの大企業は、税金によって手厚く守られている。

 また、派遣社員のような非正規雇用は切り捨てられるが、正社員は基本的に守ってもらえるという現実もある。

 そうした“ダブルスタンダード”が若者に「大きなことはいいことだ」というメッセージを与えてしまっているのが、大企業への就職や終身雇用が求められている大きな原因だろう。

 また、今の学生は過去の“氷河期世代”を目の当たりにしており、新卒で就職がうまくいかなかった人間がその後どうなるか、たとえば「フリーターになったら一生が終わってしまう」ということを知っている。そのため、2010年卒(大学生)の有効求人倍率が1.6以上あるにも関わらず、就職に対して非常にナーバスになっているようだ。