ミサワホームがグループの介護事業子会社・マザアスと風変わりな人事交流を続けている。
ミサワの営業や設計担当の社員約10名にヘルパー資格を取得させ、マザアスが運営する介護施設で3年間勤務させているのだ。
それだけではない。ミサワでは新入社員研修でも介護施設での研修は“必修”という気合の入れようだ。
なぜ、〝介護〟か――。
そこには、「介護事業がミサワの中核事業になる時代が来る可能性がある」(マザアスの吉田肇社長)という将来に向けたしたたかな計算がある。
ミサワは過去15年間、マザアスを通じて千葉県内を中心に有料老人ホームやグループホームなどの6つの介護施設を運営し、介護対応住宅のノウハウを蓄積してきた。
このノウハウを活かして進出したのが、介護リフォームの分野だ。
高度成長期に販売された一般的な住宅は、要介護状態になった途端に住み続けられなくなる間取りも多い。バリアフリーや日常的に出入りするヘルパーの動線にも配慮した改築は、15年の経験値がなせる業。2階家を平屋に減築するなど、介護に適した大改装も最近増えているという。
それでも、介護度が上がれば、自宅で住むことは困難になる。じつは、そんな高齢者に対応するメニューもそろえている。マザアスが運営する介護施設の周辺に高齢者用賃貸住宅(高専賃)を設立。介護度が上がり、自宅に住めなくなった高齢者には、この高専賃に入居してもらい、介護施設に付属する訪問介護サービスを利用してもらう。
一方で、空いた自宅はミサワが借り上げ、その賃料収入を高専賃の家賃に充てる。住みなれた地域の施設に入る経済力がなく、地元を離れざるを得ない高齢者も多いが、ミサワのスキームなら、実質的な入居者の家賃負担がないというわけだ。
さらに将来、介護度が上がった場合には、介護施設で介護サービスが受けられる。
ターゲットとなる顧客はじつは、“過去”の顧客だ。ミサワは、これまでに全国で50万棟、首都圏で15万棟の戸建住宅を建ててきた。その顧客が高齢化を迎えた今、新たなリフォームの対象顧客となりつつあるというわけだ。
まずは、マザアスが事業展開する千葉県エリアで、ミサワが高度成長期時代に開発した大規模住宅地をターゲットに、様々な介護関連サービスを提供していく。続いて、名古屋、大阪、札幌など、かつての住宅を建てた顧客が集中しているエリアで展開を進める計画だ。売上高約10億円という介護関連事業を3年間で20億円にまで引き上げるという。
「自宅や住み慣れた地域を離れたくない」という希望を持つ高齢者は多い。
住宅の新築着工件数が戦後最低水準を記録するなど、住宅業界に吹き荒れる寒風は止みそうにないが、顧客の高齢化を逆手にとったミサワの介護ビジネスが、将来、本当に「中核事業」に変わっているかもしれない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)