“完全ノンアルコールビール”の市場を開拓した「キリン フリー」。

 アルコール分が0.00%という“完全な”ノンアルコールビール市場が一段と盛り上がってきた。アルコール分0.00%のノンアルコールビールといえば、2009年にキリンビールが世界で初めて発売した「キリン フリー」が切り開いた市場。昨年は各種調査のヒット商品ランキングでも上位につけ、大きな話題となったことは記憶に新しいだろう。「ドライバー向け」というコンセプトが受けて、特にロードサイドの飲食店やゴルフ場などでは瞬く間にメニューにラインアップされたし、コンビニエンスストアなど小売店でも定番商品となってきた。

 じつは発売以来、キリンには1日100件超の問い合わせが殺到、妊婦や健康不安を抱える“ビール党”から「私たちが飲んでも問題ないのか?」といった声が寄せられていた。

 つまり、“完全ノンアルコールビール”の潜在需要は大きかったのだ。

第2弾は、酒類メーカーが「休肝日」を謳う「休む日のAlc.0.00%」。

ドライバー以外の需要で多かったのは前述のとおり、健康志向のユーザー。こうした潜在需要を掘り起こそうとして、今年4月に発売されたのが「休む日のAlc. 0.00%」。これは商品名のとおり、アルコール過剰摂取を気にしていた左党の休肝日を狙った商品で、肝機能向上に効くといわれているアミノ酸の一種の「オルニチン」も配合した。

 ニッチな商品かつフリーという先行商品がある中で、発売前には苦戦を予想する声もあったが、発売1ヶ月で年間目標数の5割に相当する20万ケースを売り上げる上々のスタートを切った。

 キリンの独走を許すまいと、昨年他社も完全ノンアルコールビールをラインアップしたが、拙速だったこともありフリーの勢いに完敗。「キリンと取引のない顧客に『フリーのようなものないの?』って聞かれたときのための商品でしかない」(酒販店関係者)というのが実情であった。

 だが、ここへ来て巻き返しの動きも出てきた。

 業界が注目するのは、8月初旬にアサヒビールが投入する「アサヒ ダブルゼロ」。アルコール分がゼロなのに加え、カロリーもゼロという世界初の商品なのだ。

 「麦のカロリーはどこへ?」という疑問が湧くが、通常のビール類で使用される麦汁ではなく、濃縮された麦芽エキスを使用することでカロリーゼロを実現。先行するキリンの2商品との差別化を図るのはもちろん、「健康を気にするユーザーは、カロリーも気にする傾向が強い」(倉田剛士・アサヒビール商品開発第一部プロデューサー)というニーズを狙ったものだ。

ノンアルコールビール市場で独走するキリンに挑む「アサヒ ダブルゼロ」。その名の通り、世界初のノンアルコール、ゼロカロリーが注目されている。

 実際、低迷が続く飲料業界の中にあっても、コーラやサイダー、紅茶飲料などではカロリーゼロ化で売上げが伸びている商品が続出している。「絶対に飲まない」という頑固なユーザーがいる一方で、「糖質オフ」や「プリン体ゼロ」「ローカロリー」を謳ったビール類も根強い人気がある。ちなみにダブルゼロは、特に“痛風持ち”が気にするプリン体も、その源となる麦芽を使用しないため普通のビールの20分の1程度だ。「小売店からの反応もよく、期待されている」(倉田氏)と鼻息も荒くなるのも無理はない。

 ダブルゼロの今年度の目標販売数は80万ケース。1000万ケース以上売るビール類から見たら“端数”でしかないが、アサヒは大型商品と同じ規模の販促活動を行う予定だ。ノンアルコールビール市場を成長市場ととらえている証拠だろう。「(禁酒の)イスラム圏など、国外からの引き合いもある」(倉田氏)など、海外市場も視野に入っている。

 各種の調査によれば、ドライバー需要、健康志向などに加え、帰宅後に“ふろしき残業”をするユーザー、夜中にネットサーフィンを楽しみたいユーザーなど、「酔うわけにはいかない」というシーン、「だけどビールが飲みたい」というユーザーが増えているという。

 今後もこうしたユーザーを掘り起こすノンアルコール商品が続々と出現してくると見られている。開発競争激化で不満の残る味の向上も期待されよう。

 ビール業界は5月の出荷量でも、過去最低を更新するなど市場縮小が止まらない。ビール離れを嘆いているだけではなく、細分化してきているニーズをとらえ、メーカーもそこに適した商品を投入していく必要がある。たとえ、それがビールの本道から外れた商品であっても。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)