ビール 最後のバブル#1Photo by Nami Shitamoto

2023年10月の酒税改正で税率が引き下げられたスタンダードビールを巡って、ビール各社の競争が過熱している。キリンビールはスタンダードビール市場に主力ブランド「一番搾り」に加え、新ブランド「晴れ風」を投入し、シェア拡大を狙う。長らく需要が落ち込んできたスタンダードビールへの回帰の動きは、“最後のバブル”ともいえる。特集『ビール 最後のバブル』の#1では、ダイヤモンド編集部が独自入手した直近のブランド別販売量の実数データを基に、各社の真の実力値を明らかにしていく。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)

酒税改正でビール回帰が加速
キリンの新ブランドが好調

 ビール業界が久々の活況に沸いている。若年層のビール離れや新型コロナウイルスの感染拡大で、縮小が続いてきたビール市場の風向きが変わってきたのだ。

 発端は、2023年10月の酒税改正によるビール類の税率変更だ。スタンダードビールが1本(350ml)当たり約7円の値下げとなった一方、第三のビールは1本(350ml)当たり約9円の値上げとなった。値下げとなったスタンダードビールへの“特需”が発生し、10月のビール4社の販売数量は前年同月比59%増と記録的な伸びとなった。

 しかし、ビール回帰の流れとは対照的に、発泡酒や第三のビールの売り上げは減少している。三つのジャンルを合わせたビール類全体では、右肩下がりの傾向は今後も続くとみられている。つまり、酒税改正によるスタンダードビールの盛り上がりは、ビール各社にとっては市場縮小が続く中での“最後のバブル”ともいえるのだ。

 スタンダードビールで沸くバブルに向けて先手を打ったのが、キリンビールである。キリンは24年4月、満を持して新ブランド「晴れ風」を発売した。キリンのスタンダードビールでは17年ぶりの新商品となる。主力ブランドの「一番搾り」に加え、同じジャンルに新ブランドを投入したのだ。

 今のところ、新ブランドの滑り出しは好調だ。同社によると、発売から3カ月で販売数量は300万ケースを突破。キリンの過去15年のビール類全体の新商品でも、最大の売り上げを記録しているという。

 ビール業界の歴史を振り返ると、革新的な新ブランドが業界内の序列を大きく変えてきた。1987年にアサヒビールが発売した「スーパードライ」はキリンの1強支配を崩しただけでなく、アサヒを一躍トップメーカーに押し上げた。キリンは第三のビール「のどごし生」のヒットをきっかけにアサヒから一時首位を奪還している。

 ビール大手の23年のシェアはアサヒ、キリン、サントリー、サッポロの順である。酒税改正を引き金にスタンダードビール市場が主戦場となる中で、キリンの新ブランドは序列を再び揺るがすことができるのか。

 今回、ダイヤモンド編集部は、晴れ風を含めビール4社が展開するスタンダードビールのブランドの販売数量のデータを独自入手した。直近の各ブランドの販売数量から浮かび上がるのが、真の実力値である。次ページでは、実数を明らかにするとともに、キリンが晴れ風で挑むシェア拡大の成否も占っていく。