世界秩序が大きく変わろうとしている。アメリカが超大国でなくなり、中国・インドが台頭するなかで、日本はこのまま没落してしまうのか。世界金融危機を予言したことであらためて注目を浴びている知の巨人、ジャック・アタリの著作を通じて、21世紀の国際政治・経済の先行きを大胆に読み解く。(文/『週刊ダイヤモンド』副編集長 藤井 一)

「21世紀の歴史」に学ぶ

ジャック・アタリ
ジャック・アタリ(Jacques Attali)●1943年生まれ。アルジェリア出身のフランス人。30代でミッテラン政権の大統領特別補佐官を務め、EU統一の青写真を描く。欧州開発復興銀行の初代総裁。現在はプラネット・ファイナンスを通じて途上国支援に尽力すると同時に、サルコジ大統領のアドバイザーという重責を担う。経済学者、政治学者、歴史家、哲学者として幅広く精力的に活動。昨年の世界金融危機を予見したことで、あらためてその発言に世界の注目が集まっている。

 ジャック・アタリとはそもそも何者なのか。彼の輝かしい経歴、業績を紹介し、最初に読むべき二冊のテキストについて紹介する。

 「ジャック・アタリは本当は3人か4人いるんじゃないかと思っていました」

 ジャック・アタリ著『21世紀の歴史』『金融危機後の世界』を翻訳した林昌宏氏は、そう言って舌を巻く。訳文について質問のメールを出すと、いつも5分以内に返信が来るというのだから、無理もないだろう。

 実際にアタリ氏と会って、謎は氷解した。話している最中にもブラックベリー(多機能携帯電話)でメールを打ちまくり、電話をかけまくる。情報収集に余念がない。

 「彼は24時間オンラインなんです」(林氏)。

 経済学者であり政治学者、歴史家であり哲学者。ガンジーの伝記も書けば、戯曲も書く。著書は45冊を数え、オーケストラの指揮までやってのける。正しく「知の巨人」だ。

 しかも、単なる教養人ではない。政治・経済の実務家としても超一流の手腕を見せる。

 30代でミッテラン政権の大統領特別補佐官として抜てきされ、40代で欧州復興開発銀行の初代総裁に就き、50代でプラネット・ファイナンスを創設。マイクロファイナンスを通じて途上国支援に東奔西走の日々を送る。