10月の急激な円高を受けて、小売り店の「円高還元セール」が相次いでいる。米リーマン・ブラザーズ破綻以降、円はドルやユーロに対して急騰した。

 これを受けて、スーパー各社は、果物や肉類など輸入食品を中心に通常価格より10~30%値下げしている。

 まず、仕掛けたのはイトーヨーカ堂。10月15日からの2日間、30品目を値下げした。20日以降、円が1ドル=100円を突破し、さらに急騰すると、29日からの6日間で第2弾を実施している。

 すると、イオンが11月1日からなんと来年2月末日まで、食品に加えて衣料や住居関連など300品目を値下げするとぶち上げた。

 ヨーカ堂がイベント的に試みたのに対して、イオンは長期の値下げ政策である。

 じつは、この円高還元は先取りにすぎない。商品の決済は、おおむね、買い取り予約で3ヵ月前にすませているため、小売り企業側に為替差益が出るのは数ヵ月後のことだ。

 円が急騰したタイミングをとらえ、消費者の購買意欲を引き出そうと、「円高還元」の名目で前倒しに実施しているのだ。

 特にイオンは、飲料メーカーは契約ずみで「円高による値下げは考えていない」としているボージョレ・ヌーボーについても、「酒類の輸入子会社をフル活用して値下げを検討したい」(近澤靖英・イオンリテール専務)と、前のめりだ。

 しかし、メーカーは、協賛金のかたちで負担を迫られており、「普段の特売と変わらない」(食品メーカー)という。セール期間中に円安に振れたり、物量が売れなければ、小売り企業は損を負う。

 昨春に食料品の値上げが始まってから、客の反応が鈍くなり、スーパー各社は「生活応援価格」や「家計応援プライス」と銘打ち、恒常的に1000~2000品目を値下げするケースが増えていた。

 収益を圧迫する低価格競争が激しくなるなか、新たに始まった円高還元セール。リスクを取ってでもさらなる値下げセールを仕掛けるところに、苦しい台所事情が垣間見える。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 須賀彩子 )