要約者レビュー

『「好き嫌い」と才能』
楠木 建著
東洋経済新報社  512p 1800円(税込み)

 傍からは「よくそんな大変なことができるね」と言われるが、本人は好きでやっているだけなので、大変という実感はない。それどころか、好きで続けているうちに成果が出て、人の役に立てるのだと自信が生まれる。すると、ますますそれが好きになってのめり込み、我を忘れ、才能が結実する。これぞ「好きこそものの上手なれ」を体現する好循環だ。

 本書は、ロングセラー『ストーリーとしての競争戦略』でお馴染みの楠木氏が、さまざまな分野で道を極めている19名の経営者やプロフェッショナルを相手に、その類まれなる才能をいかに開花させたのかを掘り起こす対談集だ。ローソン代表取締役の玉塚元一、元プロ陸上選手の為末大、音楽プロデューサーの丸山茂雄など、錚々(そうそう)たるメンバーが登場する。

 プロフェッショナルの才能の根底には、その人独自の「好き嫌い」がある。彼らはインセンティブ(外的報酬)ではなく、内から湧き上がるドライブ(動因)に突き動かされているため、逆境に立たされようと何のその。渋々、努力している人たちを尻目に、たちまち壁を突破し、道を極めていくのだ。とかく「良し悪し」で評価されがちな仕事の世界に「好き嫌い」の軸を持ち込み、各分野のプロがプロたる理由をつまびらかにしていく、ユーモアたっぷりな楠木節は圧巻としか言いようがない。

「好き嫌いで食っていけるほど世の中は甘くない」。そんな固定観念をバッサリと斬ってくれる痛快な一冊だ。「努力の娯楽化」の真骨頂が今ここに! (松尾 美里)

著者情報

楠木 建(くすのき けん)

 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。1964年東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略。著書に、『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』(ともに東洋経済新報社)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、Dynamics of Knowledge, Corporate Systems and Innovation、Management of Technology and Innovation in Japan(ともに共著、Springer)など。