自社を成長させるためには
競争戦略を「ストーリー」で考えよ
市場で勝ち残るための競争戦略をどう立てるかは、企業が成長していく上で最も重要な経営課題の1つです。一口に競争戦略と言っても、企業によって少なからず優劣が出ます。秀逸な競争戦略を企業が立てるためには、流れと動きを持った「ストーリー」として戦略を捉えることが重要です。
そうした視点に立って競争優位の本質を捉えた戦略を立てないと、企業は成長することができません。「ストーリーとしての競争戦略」とはどういうものか、それが企業の成長にどう関わってくるのかを、考えてみましょう。
日本企業の競争戦略に足りないものは何か――。世間では、よくこうした議論が行われます。しかしこの議論をするときに、「日本企業」が主語になってしまうことにそもそも大きな間違いがある。
日本国内に様々な企業があるだけで、「日本企業」というものは存在しない。日本で「日本企業」と集合名詞のように使われてしまうのは、欧米や中国の企業とは違う共通点や同質性があるという暗黙の前提があるからだと思いますが、全くそんなことはありません。世界中どの国であっても、企業経営というのは、個別の企業、個別の事業の成長を目指すものであり、そのためにどんな戦略を描いて実践していくかを考えることなのです。
たとえば、中学校では「3年B組の成長」などというものは考えません。鈴木さんとか山田さんとか、生徒1人ひとりがどう成長していくかが重要なだけであって、それを「3年B組」という集合体で捉えようとするのと同じくらい、「日本企業」を主語にして戦略を語るのはおかしなことなのです。
もっと言えば、たとえばソニーという企業を見ると、テレビ事業は不調でも、ソニー生命の保険事業などは非常に優れた戦略で価値を持っている。競争力の主体は事業であって、「ソニー」という企業そのものではありません。
ドイツで「ドイツ企業の競争力」と言っている人はいないでしょう。私が以前、あるドイツ人に言われたことですが、「何で日本だとみんな『日本企業』と言うのか。そんな企業はないじゃないか」と。ドイツ企業の競争戦略はないが、「BMW」「シーメンス」の競争戦略はある。つまり「会社」を主語にせず、事業で考えることが重要なのです。特に規模が大きく、複数事業を抱えている企業の場合、1つ1つの事業を見ないと競争力の正体はわかりません。
したがって、逆説的に言えば「日本企業の競争戦略」という問いを立てないことが、今後の企業の成長にとって大事ではないかという言い方ができます。