『好きなようにしてください』の読者3名が、著者の楠木建氏と語り合う座談会。20代編に続きお送りするのはマネジャー編です。前編では、社会人経験の長い読者3人の仕事観から、仕事における男性と女性の本質についてまで語り合います。(撮影・鈴木愛子 構成・肱岡彩)
仕事でどのような景色を見たいのか
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(すべて東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。
楠木 ご自身のキャリアと照らし合わせた場合と、上司としての立場でこの本を読んでいただいた場合のこの本の感想を伺いたいのですが。共感していただけたところや、逆に、意見が合わないなと思うところはありましたか?
丸山 私自身は、どちらかと言うと、好き放題やってきた人生なので。実はあまり違和感はないですね。むしろ「好きなようにしてください」っていうフレーズもそうですが、この仕事をやれとは「誰も頼んでいないよ」っていう、あのフレーズは、結構、私の中にグッときているところがありましたね。
正直、私も若いころに、いろいろ悩んだりもしましたけれど、結果論ですが、当時私を批判していた人たちは、いまの周りにはいなくなりましたし。
楠木 どんなことを批判されてたんですか?
丸山 製薬会社でキャリアをスタートしたのですが、たとえば、私が製薬会社から製薬会社に転職した時は、業界自体が右肩上がりで、とても儲かっている業界だったので、「なんで転職するの?」とか、「そもそも、そこがわからない」とか言われましたね。
楠木 大きなお世話(笑)。
シミック・アッシュフィールド勤務。外資系製薬会社を経て現職。新規事業の立ち上げやBPRを中心に行う。
丸山 働きながら、当時、グロービス(グロービス経営大学院大学)に通い始めたんですけれども。「なんでグロービスなんて行く必要あるの」って批判も受けましたね。
楠木 おもしろいですね。僕が不思議なのは、それぞれ色々な人がいて、色々な考えで生活や仕事をしてるのに、なんでそんなに他人のことに関心が向くのか、ということ。そういう人に「なぜ?」って問い詰めてみたい。
なぜ、人の転職とか、人のグロービスとか気になるのか。そんなの個人の自由な選択に基づく行動ですよね。
丸山 そうですよね。自分が見えてないところに行くから、気になるのかもしれないですね。先日久し振りに、以前勤めていた会社の同期と飲んだんです。彼は同じ会社で今も働いていて。良い悪いではなく、いま見えている世界はそれぞれ違っているなというのを感じて。
楠木 いまの「見えている」っていうのが、非常にいい表現ですね。結局、人間って見えているところは限られている。同期の方が同じ会社に留まっているのも、その方が、好きでそれをやっていれば、何の問題もないわけです。その人が見えているけれど、いま、丸山さんには見えないっていうこともあるでしょうね。逆も、もちろんあると。
だから、「好きなようにしてください」っていうのは、仕事の中で、どんな景色を見ていたいですかっていう、見ていたい景色の選択みたいな、そういう面がありますよね。
たぶん、丸山さんご自身にとっては、いまの会社で見える景色のほうがいいと。おもしろいのは、なんでみんな人の見ている景色に対して、異議申し立てを行うのかなんですよね。
その極端な例として僕がどうにもわからないのは、ちょっと仕事から外れますけど、夫婦別姓の問題なんです。みんなが別姓になれと言っているわけではないけれども、反対する人がいますよね。別姓にしたいやつはしろ、したくないやつはそのままでいいと言っている。どっちにしろ失うものがない。これほど社会的なコンセンサスを取りやすいこともないぐらいなのに、それでも別姓というオプションを認めない人がいる。僕に言わせると、意味もなく人のことに関心を持っている。
丸山 たぶん、別姓の話も、転職の話も同じですよね。結局、じゃあ、夫婦別姓が嫌だと。じゃあ、あなたは別姓じゃないほうがいい方とパートナーになればいいじゃないかと。
楠木 そうそう。「好きなようにしてください」なんです。