役所、銀行、病院などどうしても順番待ちをしなければならない場面がある。待つことが好きな人間は少ないので、早く自分の番号が来るとうれしい。しかし、いつもすぐ来るとは限らない。たいていは番号を受け取り、自分の番号が呼ばれるまで待つしかない。そこはたいてい長椅子があり、いろんな人がいろんな表情で並んで待つことになる。
待ち時間の長椅子ほど、美人がはっきりわかる場所も珍しいのではないか。すぐわかるのだ。
美人は静止しているように見える。実際には少し動いているのだが、動きが小さいのだ。まず、自分が座るべき場所を見つけ、静かに腰をおろす。そして、流れを読む。だいたい自分が呼ばれるまでの時間を推定する。何人待ちで一人あたり何分くらいかかるのか。それでだいたいの見当をつける。だから、それなりに何をして待つかを決められる。
たとえば本を読んで待つなら、すばやく本を取り出し、読み始める。さりげなく順番の進み方も気にする。そして座る姿勢が一定だ。姿勢がいいこともさることながら、全身の揺れが少なく、動きにくい。静かに待つ。
待たされるというのは、ストレスがたまることでもある。どうしてもイライラしやすいし、それを身体で表してしまう。たいてい身体のあちこちを動かしたり、急に立ち上がったり、大きなアクションとともにあくびをあいたり、足をゆすったり。落ち着きがなくなっていく。そんななかで静止している人は目立つのだ。
自分なりにどれくらい待つのかを把握しておくと、イライラは驚くほど減っていく。人は心に準備ができるとイライラしにくいのだ。たとえば、なかなか来ないエレベーターがあるとする。そのエレベーターが何階にいるかを表示するだけで、待つ人のイライラは半減するらしい。
イライラしないための待ち方を心得ているということだ。そして、自分の番が来る。ここで一番差が出る。美人はすばやく反応し、笑顔で窓口なりに進んでいく。その場で有効なら、声で返事もする。呼んだ人もその美人が該当者だとすぐわかり、対応も早い。
静止からすばやい反応。この流れが美しい。
一方、落ち着きがない人は、待つことから一刻も早く解放されたかったはずなのに、自分の番が来た時に反応が鈍い。呼ばれたことに対して無視するかのようなそぶりを見せ、わざとではないかと思うほどゆっくり動き、対応する。そのすべての動きが面倒くさそうだ。番号札など持っていたら、カウンターで投げるように出す。その瞬間に「美人のもと」も一緒に身体から逃げていく。