去る9月6日、最高裁第三小法廷にて、今後東京が国際金融センターたり得るかどうかにも大きく影響する極めて重要な判決が下された。もし、今回の実質的な上告人逆転勝訴の判決がなければ、「日本の資産運用会社は投資家の利益を守らなくてもいい」というに等しい地裁・高裁の判決が確定してしまうところであった。実は、筆者が代表取締役の会社が、この裁判の当事者(上告人)であったので、今回の事案について検証し、実務の参考に供したい。
「利益相反天国」の日本
筆者は警鐘を鳴らしてきた
筆者は、連載第21回で利益相反天国と言っても過言ではない日本の現状に警鐘を鳴らし、連載第55回の末尾では、本事案についての高裁の判断に苦言を呈した。また、先月掲載された連載第72回では、東京がアジアナンバー1の国際金融センターになるためには投資家の利益が守られなければならないことを強調した経緯にある。
今回の事案(平成27年(受)第766号)は、既に最高裁判所のHPで判決文が公開されているほか、請求すれば、誰でも固有名詞を含む全記録を閲覧できる。しかし、表面的にはややわかりづらいので、以下に事案の概要をかいつまんで説明する。
本件の全スキームは、図1(1-1~1-4)の通りであり、少し複雑である。そこで、詳細は図1に譲るとして、こういう複雑なスキームを組んだ結果として何が行われたのかを説明する。
まず、Y1社は、投資ファンドの運営会社である(本件の場合、投資ファンドは商法上の匿名組合が使われたので、この投資ファンドの運営者のことを、法律的には「営業者」と呼ぶ)。そして、Y2氏はY1社の代表取締役として、この投資ファンドの運営を行なっている。H社は筆者が代表取締役の会社(上告人)で、Y1社が運営する投資ファンドに3億円(のちに一部解約して2億5000万円)出資した。ちなみに、筆者がY1社の運営する投資ファンドに出資した理由は、Y1社の代表者であるY2氏が筆者の昔の上司であり、「たくさんのベンチャー企業に投資をして若い人を助けてあげたい」と虚偽の説明を受け執拗に口説かれたからだった。それまで筆者は、Y2氏は元上司であり良い人だと信じていた。