「いえ、私は仕事がありますので、後から行きます」

 だが結局、正臣さんが病院へ来ることはなかった。

 搬送先の病院で頭部CT等の検査を受けて重大な病気がないことを確認され、めまいも収まった妙子さんが、「大丈夫だった」とスマホで連絡を入れたのは昼少し前。正臣さんは会社で仕事をしており、妙子さんは1人でタクシーに乗って帰宅した。

原因はよくわからず、女性に多い
「良性発作性頭位めまい症」

 妙子さんを襲ったのは「良性発作性頭位めまい症」。患者は女性のほうが多いといわれている。

「頭位」は頭の位置、「発作性」は特定の頭の位置に急に動かした時に発すること、「良性」とはつまり、手術を要するような重大な「めまい」ではないことを表す。数年前、有名女子サッカー選手が、この病気で入院したことにより知られるようになった。

 めまいには、脳から来るものと耳から来るものがあるが、全体の7割は耳から来る。

 耳からのめまいと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、メニエール病だろう。しかし、日本めまい平衡学会の「めまい相談医」によると、メニエール病によるめまいは全体のわずか1~10%程度、圧倒的に多いのは良性発作性頭位めまい症なのだという。

 そのほかの原因としては突発性難聴、前庭神経炎、良性発作性頭位めまい症のほか、事故や藥等による内耳障害がある。いずれも診察・診断は耳鼻科で行う。

 良性発作性頭位めまい症は耳鳴り、難聴などの予兆はなく、いきなりめまいが起きる。原因はよく分かっていないが、ストレスや運動不足が関係していると言われている。ただ、有名サッカー選手が運動不足であるはずはないので、やはり「原因はよく分かっていない」と考えるのが妥当なのではないだろうか。

 めまいの震源地は耳の内部にある「三半規管(さんはんきかん)」だ。三半規管の根元には耳石器と呼ばれる器官があり、大きさわずか0.3mmの「耳石(じせき)が無数に存在している。主成分は炭酸カルシウム。耳石は身体の傾きにともなって動き、その情報が脳に伝わることで、我々は、身体の位置や動くスピードなどを把握することができる。

 しかし、この耳石が、何らかの原因で耳石器から剥がれ、リンパ液で満たされた三半規管の中に入りこんでしまうと、耳石が動くたびにリンパ液の流れが乱され、「今回転している!」といった誤った情報が脳に送られて、めまいとなる。