長期化や高年齢化の進む「超引きこもり社会」の行く末の一端を暗示するような悲劇が、秋田市で起きた。

 11月12日深夜、元銀行員の78歳父親が、50歳の長男を金属バットで撲殺したという事件だ。長男は、大学在学の頃から、約30年にわたって、ほとんど家に引きこもる生活を送ってきたという。

 以前、当連載で、誰でも少しは引きこもりたいと思うこともあるだろうが、ブラックホールのような強烈な引力に吸い込まれると、時として、人生のロングバケーションになりかねないという話を紹介した。それにしたって、30年という月日は、途方もつかないくらいに長い。

 一体、長男は、どんな思いで30年を過ごしてきたのだろう。そして、銀行を退職後、年金生活を送ってきた父親は、そんな長男をなぜ殺さなければいけなかったのだろうか。

閑静な住宅街で起きた
78歳父親による50歳長男撲殺事件

 筆者は、今週発売の『サンデー毎日』の取材で、現場を訪れた。

 事件が起きたのは、秋田駅から車でわずか10分余りの閑静な住宅街。関ヶ原の戦いの後、水戸から国替えとなった豊臣方大名・佐竹氏の久保田城跡の千秋公園に程近く、紅葉の綺麗な近くの川沿いには、ランニング姿の人たちが時々、通り過ぎてゆく。

「この辺りは、旧名門女子高にも近く、公務員や銀行員など、いわゆる名士と呼ばれる人たちが多く移り住んできたような景観のいい住宅地です」(近所住民)

 長男の自宅も、そんな一角に「20数年くらい前に引っ越してきた」(近所住民)という、赤茶色の三角屋根の瀟洒な2階建ての佇まいだった。傍目には、快適で理想的な住環境にしか見えない。

 しかし、11月12日午後11時30分過ぎ、長男の田口哲さん(50歳)は、自宅2階の踊り場付近で、頭から大量の血を流し、うつ伏せに倒れたたまま、遺体となって見つかった。1階の廊下には、父親の脩吉容疑者(78歳)が放心状態で、横に寝っ転がり、近くに金属バットが置かれていた。

 119番通報したのは、深夜に帰宅した母親だ。田口さんの家庭は、父親、母親、長男の3人暮らしだった。