阿部産業社長・阿部弘俊さん

「当時は安い商品だとスポンジ底を使う、かかとが低いものが多く、単価は200~500円くらいだったでしょうか。でも父は当時から東京の資材屋で、例えばモケット生地のような良い材料を調達し、単価1500円ほどの商品を作っていました。東京の問屋さんと付き合うことで、市場が何を求めているか分かっていたのかもしれません」

 こう語るのは現在、阿部産業の社長を務める三代目・阿部弘俊さんだ。数十年前から高品質なスリッパで、差別化を図り、量産しないポリシーを守り続けてきた阿部産業だが、それでも海外の安価なスリッパとの価格競争に巻き込まれてしまう。大手百貨店で販売されているブランドもののスリッパさえ、生産拠点を中国などへ奪われてしまっていたからだ。

「ならば、自分たちにしか作れないオリジナル商品を作ろう」

 阿部産業のオリジナルスリッパ作りが始まった。

米沢織とのコラボ“2万円スリッパ”で
「グッドデザイン賞」受賞

阿部産業専務であり、商品企画を担当する阿部宏子さん

「もともと阿部産業ならではのオリジナル商品を企画することはあったんです。でも基本的には問屋がほしいというものを作ってきました。ですから、コンセプトや価格も決めるような完全なオリジナル商品をつくるのは初めてでしたね」(阿部宏子さん)

 弘俊さんの妻であり専務の宏子さんは、子育てが一段落した2000年頃から阿部産業で本格的に仕事を始めたが、ずっと心に刻んでいるのが「絶対安いものは作らない」「品質が第一」という先代の思いだ。そんな思いを持ちつつ、これから生き残りを図るうえで完全なオリジナル商品を作ろうと、2007年、山形県工業技術センターの紹介で「山形エクセレントデザイン塾」に参加する。

 そこで出会ったのが、デザイナーの山田節子さん。大手百貨店を中心に様々な商品を作ってきた山田さんの指導を受け、早速商品企画を始める。もちろん最初は試行錯誤だったが、山田さんの自宅にも通いながら学んだ。そして、山田さんからのアドバイスで地場産業の交流として、米沢織とのコラボ商品開発を思い立つ。完成したのが「HAKAMA JITATE」だった。

「HAKAMA JITATE」。中敷きが畳のような素材で、暑い季節には特にぴったりだ

「HAKAMA JITATE」は、地元山形の「米沢織り」から作られる丈夫な「袴地」とのコラボレーション商品。中敷きには畳のような感触の人工素材を使っており、さらっとした履き心地が気持ちいい。その後、ロンドン在住のデザイナー和井内京子さんとコラボレーションし、スリッパだけではなく、バッグやベンチといった商品も手掛け、ロンドンで販売された。現在、スリッパは8200円で販売されているが、これに高級旅館やホテルをはじめ、お寺やセレクトショップ、意外なところではサントリー美術館から注文が寄せられているという。