「こうした事情もあってオリジナル商品の受注は、数ヵ月待ちになることもあります。そこでお客様に『今はお受けできませんが、数ヵ月後なら可能かもしれません』とお伝えすると『もういいや』となるかと思ったら、本当に数ヵ月後に『そろそろ作っていただけますか?』と連絡があることも。根気強く待ってくださる方がいらっしゃるんです」(弘俊さん)

「かほくスリッパ」というロゴをつくり、ブランド化をすすめている

 現在、河北町はスリッパのブランド化に動き始めている。阿部産業のみならず、6社全体「山形県スリッパ工業組合」でスリッパの街として盛り上げていこうとしているのだ。この動きを支えているのが河北町商工会の芦埜貴之さん。2014年6月から商工会と6社で連携して『かほくスリッパブランド化計画』開始し、「かほくスリッパ」という統一ロゴをつけることで、海外産と差別化された高品質なスリッパであることをアピールしている。

「河北町のスリッパの品質は、海外製とは全く違う高いものばかり。でも、自分たちはすごいものを作っているという自覚がないんです。それに、河北町に住んでいる人の多くが“河北町はスリッパの町”だと知らない。だからこそ、ブランド化してまずは町の人に知ってもらいたい」(芦埜さん)

阿部さんが“自分の履きたいもの”としてつくった「麻のスリッパ さふら」。ふわふわの履き心地が最高
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 河北町スリッパ界でも先端をはしる阿部産業は、すでに次のステージを目指している。オリジナル商品を多数作ってきたが、最近は“自分が履きたいスリッパ”を作りたいと「麻のスリッパ さふら」を生み出した。

「とにかく自分が履いて気持ちいいスリッパを作りたかったんです。それから、河北町は紅花の町でもあります。なので、紅花で染めた糸をアクセントに使って、河北町全体のPRにつながるようにしています。いい色でしょ?」(弘俊さん)

 そんな弘俊さんの夢は、河北町を“スリッパの聖地”にすること。現在でも、阿部産業に直接スリッパを購入しに来る個人の顧客がいるというが、店舗があるわけではない。

阿部さんの夢、スリッパのオーダーメイド体験のできる場所が生まれるのが楽しみだ

「2年前、今治タオルで有名な愛媛県今治市に視察旅行に行ったんです。そのとき、タオル産業と観光が一体化しているのを見て、とても勉強になりました。でも今、河北町には、かほくのスリッパを売っている場所さえない。それでも、お客様は直接うちに買いに来てくださる。なら、店舗だけでなく、自分好みのスリッパをその場で作れる“オーダーメイド体験”ができる場をつくったら、喜んでもらえるかなと思っています」(弘俊さん)

 近年、内履きに履き替える習慣のなかった欧米諸国でも、内履きの魅力に気づく人が増えてきている。「百貨店のバイヤーも今、外国人観光客向けの内履き(スリッパ)を探しているようだ」と芦埜さんが語るように、今が国産スリッパ海外進出のチャンスともいえる。

 日本を訪れる外国人観光客の関心が“モノ”から“コト”へと移り始めた今。心地よい感触と快適な住生活を与えてくれる河北町のスリッパが、彼らから見て日本の“新名産”になる日は、遠くないかも。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 林恭子)