──文中において、数多くの「哲学者の言葉」が引用されていますが、原田さんが一番好きな言葉は何ですか?
う~ん…たくさんありすぎて…。でもやはり、主人公のアリサが物語の冒頭で最初に出会うニーチェの言葉「祝福できないならば呪うことを学べ」、ですね。
他人を祝福しなければならない、おめでとうと言わなければならない状況だけど、心が相反している状態にあるならば、無理矢理自分の心を殺すことはない。それよりも「受け入れられない」という事実を自分で認め、心を開放し、徹底的に呪ってしまったほうがいい…という「ニーチェ流の明るい教え」です。
主人公のアリサは、好きだった男性が、自分と仲のいい由美子先輩と腕を組んで歩いているところを目撃してしまい、「先輩を祝福すべきという気持ちの反面、2人がうまくいかなければいいのにと思ってしまう自分」に嫌悪感を覚えますが、このニーチェの言葉が突き刺さり、心が解放されます。
他人の幸福を共に喜び、祝福できない自分はダメなんじゃないか?などと自分を責めるのではなく、心がグツグツしちゃっているんだったらそれでいいんじゃないの?…というこの言葉に「なるほど!その通りだ!」と感服しましたね。「呪う」のインパクトは強烈ですが、この言葉に救われる人は多いんじゃないかな。道徳の授業では決して教えてもらえないでしょうが、極めて「明るい教え」だと思います。
──「哲学」というと、とても難しいものという印象を勝手に持っていましたが、原田さんのお話を伺っていると、哲学が身近なものに感じられてきました。
本の中でも紹介していますが、カール・ヤスパースの言葉に「人は誰でも哲学において、彼が本来すでに知っていたものを理解する」というものがあります。そもそも哲学は人に意味を与えるものではなく、人はすでにいろいろなことを知っていて、それを理解し直すことが哲学なのだ…という意味です。すなわち、もともと知っていることを違う角度で見たり、より深く覗き込んでみたりして、「なるほど、こういうことだったのか」と理解し直すのが哲学。答えは自分の中にあるんです。
私は生粋の「哲学ファン」。だからこそ、もっと多くの人に哲学の魅力を伝えたいと考え、この本に魅力をわかりやすく、たっぷり詰め込みました。この本をきっかけに、哲学を身近に感じてもらえるようになったら、こんなに嬉しいことはありませんね。
(了)