なぜ、カッコ悪いフォームが
プラスに作用するのか

 筋力や体格などのフィジカルに依存しすぎないためには、「体の重さ」を利用することが重要です。

 ここでは、サッカーのメッシの動きから解説してみることにしましょう。

 私が彼のプレーを見て真っ先に感じたのは、独特な腕の使い方です。試合の映像を見ていくと、両腕が体の前方で動いていることが多いのです。

 まるで「欽ちゃん走り」のように両腕を前方でブラブラさせながら、どこかチョコマカと走っている印象があります。

 その意味では決して格好よくはありません。お手本になるようなフォームとはとても言えないはずですが、現実には世界一とも称される華麗なパスまわしでゴールを量産し、トップの名をほしいままにしてきたわけです。

 では、その格好のよくないフォームが、なぜプラスに作用しているのでしょうか?

 私の過去の著書を読んだ人の中には、マラソンの高橋尚子選手の走りをオーバーラップさせた人もいるかもしれません。高橋選手もまた、腕を「でんでん太鼓」のように左右にブラブラさせる独特な走り方で世界のトップに君臨してきました。

 フォームこそ違いますが、二人に共通しているのは「腕を前方で振ることで、体の重さをさらに有効活用している」という点です。

 でんでん太鼓のたとえで言えば、柄の部分が体幹、玉のついたヒモの部分が両腕にあたりますから、体幹主導で体を動かせば腕も勝手に振られていきます。つまり、動力源である体幹をフル活用できていたからこそ、腕振りに頼らない、無尽蔵のスタミナを誇った走りが可能になっていたのです。

 メッシにしても同様です。身長169センチ、体重67キロと、体格は決して恵まれていないにもかかわらず、あれだけの結果を残しているのは、体の重さを有効活用する術に長けていたからでしょう。

 前方で腕をブラブラさせているのは、自然にそうなったというのが正しいところだと思いますが、その結果、体の重さも利用できるようになった。そのほうがうまくプレーできることがわかり、それが定着した。あるいは、チョコマカと走っているとお伝えしたように、地面に踏ん張らず、あまり脚力に頼っていないのもわかります。これも、そのほうがうまくプレーできるから、プレースタイルとして定着したのでしょう。

 誰に教わったわけでもなく、自分自身で動きやすい体の使い方を見出していった、こうしたセオリーにとらわれない彼の卓越したセンスが世界的なプレーヤーに押し上げる原動力となっていったと言えるのです。