「じつは、あまり在庫がないんです。今年は急に気温が下がったので、例年以上に売れてしまって」。東京都内百貨店の婦人服売り場で、販売員がこう説明する。
この秋冬、百貨店で婦人コートなどを中心に商品不足が発生している。
背景はいくつかある。
まず、2008年秋のリーマンショック以降の長引く百貨店不況で、アパレルは在庫リスクに敏感になり生産調整をしてきた。特に今年は猛暑が長引き、9月中旬まで秋物衣料の動きが鈍かったため、いくつかのアパレルが生産をさらに絞り込んだ。
そこに重なったのが、尖閣諸島問題だ。中国生産品では、検閲などで商品輸送が遅れたのに加え、提携工場で賃上げなどを求めるストライキが勃発し、商品調達に狂いが生じる事態になった。
こうして供給が細っていたところ、10月に入ると一転して気温が低下した。気温の寒暖は衣料品の売れ行きにとってプラスに働く。消費者の節約疲れも相まって、この10月は、2年8ヶ月ぶりに全国百貨店の売上高が前年同月を上回った。
特に売れ行きがよかったのがコートなどの重衣料である。大手百貨店の婦人コートの売れ行きは、前年同月比で、高島屋が10月19.7%増、11月は12.7%増。伊勢丹新宿店は11月9.5%増といった具合だ。
この需給ギャップで、百貨店売り場では婦人コートを中心に品薄感が出ているのだ。ある大手百貨店は「百貨店なので商品在庫がゼロになってしまうということはない。ただ、サイズや色で欠品が出ている」と説明する。
さらに東京都区部では、12月25日に閉店する有楽町西武が閉店セールの真っ最中。12月は前年同月比2.3倍という勢いで売上高が推移している。この閉店セールに商品が流れれば、正月のクリアランスセールを前に、ますます百貨店同士で商品の奪い合いが激化することになる。
限られた商品をアパレルが優先的に流すのは、売れる店舗だ。売れ行き不振の店舗は、欠品が多くなり、消費者離れを起こすという悪循環に陥りやすくなる。この年末年始商戦は、百貨店の優勝劣敗にますます差をつけることになるだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)