企業の資金繰りが厳しくなる年末に向けて、金融庁が危機感を強めている。
「借入金の返済条件を変更した取引先で、再度の申し込みをしてきている件数を教えてほしい」
金融庁は2010年11月頃から、一部の金融機関に対して、融資先の経営状態に関する聞き取り調査を行っている。
その背景にあるのは1年の期限延長が決まった、通称モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)だ。これは金融機関が、中小企業から返済条件の変更(リスケジュール。以下、リスケ)を求められたら、積極的に対応するよう定めた法律で、倒産件数の歯止めに大きな効果を発揮したとされている。
その一方で、リスケをした企業が単なる時間稼ぎではなく、きちんと業績を回復できるのか当初から疑問視されていた。そこで当局は、リスケ後に回復できずに再びリスケを申し込む企業の実態を把握するため、聞き取りをしていたのだ。
こうした当局の懸念は杞憂ではなかった。
「条件変更をした取引先から、再度の申し込みを受けるケースが増えている」。12月6日、政府との意見交換会の場で、全国地方銀行協会の小川是会長の口からこんな言葉が飛び出した。計画どおりに業績が回復せず、再び金融機関に救いを求めているというのだ。
地銀でそうなのだから、規模が小さな地域金融機関はなおさらだ。全国信用組合中央協会の会長を務める、大東京信用組合の中津川正裕理事長によれば、「リスケに応じた件数の約12%」が、再度のリスケを申請しているという。
それでも東京はまだいいほうだ。大阪に拠点を持つ、ある信用組合の理事長は、「そんなに少ないのですか。うちの再リスケの割合は、4割はくだらない」と明かす。「大阪でもそうなのだから、地方ではさらなる惨状が広がっている」(信組関係者)と見られる。
だが、ここにきてモラトリアム法では救い切れないほど、中小企業を取り巻く環境は厳しさを増している。というのも、今まで優良な貸出先とされていた企業の、「突然死が増えている」(中津川理事長)というのだ。
これまでは、次第に追い詰められていって資金繰りに奔走した結果、手形の不渡りなどで倒産するケースが多かった。それが最近では、再建自体を諦めて、リスケも申請せずに倒産を選択する事業者が増えているという。現に大東京信用組合では10月、11月の倒産のうち、85%がこうした突然死のケースだったという。
たとえリスケをしても「企業の業績が必ずしも回復していないというのが実態」(小川会長)。地方や中小零細企業を中心に、金融庁の懸念は顕在化、事態は深刻さを増しているといえそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)