少しの時間、頭を真っ白にして世界地図を思い浮かべて欲しい。
その世界地図のユーラシア大陸の西で、今顕著な変化が起きている。アジアにいるとつい見落としてしまいがちなのだが、ヨーロッパの勢力図が大きく変わろうとしているのだ。
その変化とは、フランス、ドイツが中心となって創設されたEU(欧州連合)が、東に向かって勢力範囲を広げていることである。
“西欧=EU”が、「旧共産圏の枠組みが外れて政策の自由度が増えた旧共産圏諸国を取り込む動き」と考えればよいだろう。それは、地盤沈下を続けてきた欧州が、米国に対する復権を目指して、いわば、「ユナイテッド・ステーツ・オブ・ヨーロッパ」を形成することを狙っている動きとも言える。
そのような目論見は、つい最近まで上手く運んでいた。
ところが、サブプライム問題の表面化以降、そのプランに微妙な誤算が生じている。世界的な景気急落に伴い、中欧・東欧諸国の経済が大きな打撃を受け、それがEU経済全体の重荷となっているのだ。
もともとEUの理念は、多くの参加国に単一の通貨と同一の金融政策を持ち込んで、経済圏の結束を図ることを構想している。そのため、景気が順調に推移しているときには、すべてのことが上手く行くように見える。
しかし、いったん景気が変調をきたすと、様々な部分において“不都合”が顕在化して来る。今年3月のユーロ圏16ヵ国の企業景況感指数(BCI=ビジネス・クライメット・インディケーター)は、マイナス3.58と過去最低水準を更新した。
また、EU加盟27ヵ国の実質経済成長率は、2008年4-6月期以降3四半期連続でマイナスとなっており、今年の1-3月期もさらにマイナス幅が拡大すると見られる。
今まで順風満帆だったEUが、金融市場の混乱や景気の急落に対する対応策の遅れもあり、「契機回復の遅れ」という試練に直面しているのである。果たして、彼らが上手く難局を乗り越えることができるか否か――。それは世界経済動向にも大きく影響するはずだ。