政府監視下で再建を進める日本航空(JAL)は、経営改善計画の要である企業年金削減で早くもつまずいた。公的支援実施の責任を負う国土交通省は、異例の経営介入でJAL再建に悪戦苦闘。ライバルである全日本空輸(ANA)への影響どころか、日米交渉にも波及する“奥の手”の救済策が浮上している。

 7月17日、日本航空(JAL)のOB有志が結成した「JAL企業年金の改定について考える会」はJALおよびJAL企業年金基金に対して、年金減額提案の撤回を要求する申し入れを行なった。その書面にはウェブサイト上で募った減額反対の署名が3000人を超えたと記されていた。

 JALは5月12日、年金受給対象者へ年金制度改定計画を通知し、退職給付債務を1600億円圧縮するために企業年金給付額を5割超削減する可能性を伝えた。これにOBたちが猛反発。即座に不同意の署名活動を開始し、会によると、7月17日までにOBの不同意表明への署名が3分の1以上に達した。

 OBの総数は約9000人。改定には、受給者であるOBと、加入者である現役社員のそれぞれから3分の2以上の同意が必要だ。JALは8月末をメドに具体的な改定案を固める予定だが、それを待たずにOBたちは「否」を突きつけたのだ。

 7月23日、会の世話人たちは面談の席に着いた。その相手はJALでも基金でもなかった。厚生労働省の企業年金国民年金基金課である。

 JALはOBを対象に説明会を複数回実施しているが、年金改定の詳細な説明、話し合いはなされないままだ。OBたちは、年金改定の詳細を理解するために厚労省の基金課へ頻繁に相談するようになっていた。

 「十分に話し合いができずに喧嘩別れするという、いちばんまずい方向へ向かっています」。両者のあいだに立つ基金課は懸念を強めている。

 「こんな大事な問題は話し合いを重ね、時間をかけてやるもんだ」。OBの不満は正論ではある。しかし、今のJALには時間がない。

 6月下旬、政府系金融機関である日本政策投資銀行のJAL向け融資600億円強に80%の政府保証が付けられ、みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、国際協力銀行が参加するかたちで計1000億円の協調融資が実施された。これは資金ショートを回避するためのつなぎ融資。政府と銀行団は、JALが今夏中に策定する経営改善計画の内容次第で、年末に総額2000億円の長期融資などの本格的支援に乗り出すかを判断する。年金改定は支援の必須条件となっている。