長期投資のプロ、澤上さんが読者の質問にズバリ答えるこのコーナー。今回は東京都・高村さん(43歳)からの質問です。
Q 証券税制の優遇措置の延長が見送られそうです。相場がよくないときに元の税率に戻すと相場に悪影響を与えそうな気がします。澤上さんは、証券税制の優遇など税制面での国の後押しは必要だと思いますか?
A 延長なしでも全然問題ない。必要なのは長期投資減税だ!
別に、上場株式や公募投資信託の配当金や分配金、売却益に対する課税を10%から20%に戻しても何の問題もないよ。現状の優遇税制は短期売買を煽っているだけで、証券会社にとってプラスなだけだ。
こういう証券税制ではなく、国がやるべきは長期投資減税のような制度。これは国にとってはすごくプラスだ。
例えば、株を7年以上持った人はキャピタルゲイン税をゼロにしてもいい。もし損が出たら、すべての所得と相殺できるようにする等々を認めれば、株を買う人はどんどん増える。7年間持ったらという条件だから、財源が減る訳ではない。
どのみち短期売買は続くし、税金をゼロにするといっても7年目以降だから、7年間株を買って長期保有してくれたら株価はだいぶ上がり、資産効果が生まれる。景気がよくなるだろうし、消費も増えて、企業活動は活発化するだろう。そうすれば税収も増える。税収が増えるから、7年後にキャピタルゲイン税がゼロになっても全然問題ない。
そもそも、証券税制をめぐる根本的な議論は、「相場が冷え込んでいるから延長」云々ではない。考え方そのものが違う。
預貯金は安全だから、20%の源泉を払ってもいい。だが、投資はリスクを取っているわけで、リスク資金に対して税優遇を考えないといけない。だが、そういう議論はまるでない。リスクを取る人に対してはインセンティブをあげようよ。
そういう方向で課税20%を10%とか5%にするというなら全然問題ない。要は、長期保有を増やす方向にもっていくことが大切だ。そういう意味では、本気で個人の長期の資産づくりを手伝うためには何ができるのかという視点で考えることが必要。長期の財産づくりは短期ではだめだし、“継ぎはぎ”だらけの制度でもだめ。
だから、もし証券税制が10%から20%に戻っても、慌てなくてもいい。今買ってすぐに売らなくていいのだから、迷わず長期投資をする。大きく上がったら、別に20%取られたっていいじゃないか。
<Profile>
澤上篤人(さわかみ あつと)
さわかみ投信株式会社代表取締役。長期投資のカリスマ的存在。ジュネーブ大学付属国際問題研究所修士課程履修後、スイスのピクテ銀行日本法人代表を経て、1996年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)設立。
※この記事は2010年12月21日(火)発売の月刊マネー誌『ダイヤモンドZAi』2011年2月号に掲載。2月号の特集は「いちばんわかりやすい 2011年大予測」。特別付録はいま話題の「くりっく株365超入門BOOK」。