
相続税は相続人にとって重い負担である。特に2015年の基礎控除額の減額以降、資産家以外であっても相続税の課税対象になる人は増加しており、納税に苦しむケースは決して少なくない。しかし、安易な気持ちで「脱税」に手を出してしまうと、その代償は想像以上に大きなものとなることはご存じだろうか。金銭的なペナルティに留まらず、社会的な信用失墜、さらには刑事罰によって逮捕される可能性まであるのだ。本記事は税理士の視点から、相続税の脱税がいかに危険な行為であるか、そのリスクと末路をわかりやすく解説する。(税理士・岡野相続税理士法人 代表社員 岡野雄志)
悪質な申告漏れと見なされる
「3つのケース」とは?
国税庁が実施した「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」によると、実地調査件数は8556件(前年度8196件)、追徴税額合計は735億円(前年度669億円)に上り、対前事務年度よりも増加していることがわかった。
同統計における無申告事案の場合、令和5(2023)事務年度の追徴税額は123億円と対前事務年度の111億円より大幅に増加し、公表を始めた平成21(2009)事務年度以降で最高となっている。
だが、相続税の実地調査や無申告事案は悪質なケースばかりに行われているわけではない。では、悪質と見なされるケースとは一体どのようなものか。以下3つに分けて解説する。
まず1つ目は「財産の隠蔽(いんぺい)」である。被相続人が遺した相続財産の一部を意図的に申告書に記載しない、名義預金を申告せずに隠すといった行為は悪質と見なされやすい。亡くなった被相続人のタンス預金をそのまま隠しておくような行為も該当する。