「今期の目標に向けて順調な進捗となった」。2016年4~9月期の中間決算で増収増益を達成したKDDIの田中孝司社長は、その言葉とは裏腹に険しい表情を浮かべた。「auの契約者がMVNO(仮想移動体通信事業者、いわゆる格安スマートフォン事業者)へ流出しており、契約数はマイナス傾向にある」(田中社長)からだ。
MVNOの普及と競争促進を目的として昨年末に総務省で行われた「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の影響がボディーブローのように現れ始めている。タスクフォースでは過度なキャッシュバックにより高額な端末を無料で配布する「0円端末」の是正が携帯キャリア各社に求められた。その結果、利用者の端末購入やキャリア間の乗り換えは底冷えし、代わりに安価な料金で利用できるMVNOへの流出が続いている。
KDDIと同じく増収増益となったNTTドコモの中間決算を見ると、端末機器の収支や販売代理店への手数料を合わせた「販売関連収支」が前年同期の▲222億円から▲99億円に改善。「0円端末」是正によって端末販売台数が減少し、販売奨励金も減少しためとみられる。事実、KDDIの田中社長は「端末が想定以上に売れなくなった」と発言している。
「0円端末」廃止は端末の値引き分が圧縮されるため、一時的には利益の底上げに貢献する。だが長期的には高額な端末代や通信料金を嫌った利用者のMVNOへの流出を後押しすることになる。
MVNOから不満噴出
MVNOへの流出から顧客をいかにつなぎ止めるかは携帯キャリア各社に突きつけられた喫緊の課題だ。ドコモは10月の新製品発表会で、一括648円で購入できるスマホを投入。吉澤和弘社長は「端末としてはベーシックだが、格安スマホと呼ばれるものへ値段でも対抗できる」とMVNOへの対抗心をあらわにした。
円高の影響もあり増収とはならなかったものの、中間決算で増益を確保したソフトバンクは、格安スマホに対抗するためのサブブランドであるワイモバイルが好調だ。
KDDIは傘下のUQコミュニケーションズが展開するUQモバイルに力を入れる。田中社長は「顧客満足度を高めて、何とかau(グループ)に残って頂きたいと思っている」と本音をこぼす。
こうした大手キャリアの対抗策には批判も寄せられている。先ごろ総務省で行われた「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」では、MVNOから「大手キャリアが自らの基盤を武器にサブブランドを展開すれば、MVNOは事業が立ち行かなくなる」との声があった。
厳しさを増す環境下でいかに顧客をつなぎ止めるか。好調な業績の背後で「包囲網」は確実に狭まっている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 北濱信哉)