10月に上場したJR九州。今期518億円の営業利益を見込み、まずまずの収益力に見えるが、5200億円に上る減損処理によって捻出されたものだった。本業である鉄道事業の稼ぐ力は弱いままだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)
「昭和62(1987)年の会社発足以来、30年にわたる積み重ねの一つ一つが実を結んだ」(青柳俊彦・JR九州社長)
10月25日はJR九州にとって大きな節目の日だった。悲願だった株式上場を果たし、東京証券取引所で行われた上場セレモニーにおいて、青柳社長は終始高揚した面持ちだった。
30年前の国鉄分割民営化時、鉄道事業で利益を出せる本州3社(JR東日本、JR東海、JR西日本)とは対照的に、ローカル線を多く抱える3島会社(JR北海道、JR四国、JR九州)の経営は先行き厳しいとみられていた。
実際のところ、JR九州も2年前までは、3500億円規模の売上高に対して営業利益は100億円に届いておらず、とても誇れるような収益力とはいえなかった。
特に、本業の運輸サービス事業、いわゆる鉄道事業は赤字であり、駅ビルなどの不動産事業や流通事業による稼ぎで、何とか利益を出すという構図であった。
そんなJR九州が上場にまでこぎ着けることができたのは、財務の大手術という“ウルトラC”によるものだ。それにより、2016年3月期に208億円だった営業利益が、17年3月期には熊本地震があったにもかかわらず、前年比の2.5倍になる518億円となる見通しだ(表(1))。
鉄道事業は伸び悩んでピークを迎える
そのカラクリを見ていこう。鉄道事業による黒字化が見込めなかった3島会社は、分割民営化時に「経営安定基金」をあてがわれ、その運用益で赤字を補填する形を取ってきた。
JR九州でいえば3877億円の安定基金を運用していた。まずはこれを取り崩した上で、鉄道事業の固定資産5256億円を減損処理した。これにより、単年度の減価償却負担が180億~190億円軽くなった。それに伴って、約1兆1400億円あった総資産は、一気に約6400億円にまで縮小した(図(2))。
同時に、取り崩した安定基金で、新幹線施設を保有する鉄道・運輸機構へ支払う新幹線貸付料の総額2205億円を一括で前払い。これにより、年間約100億円の負担も今期以降なくなる。