3月14日に北陸新幹線が開通した。東京からは距離のあった北陸地方が2時間半で接続されるようになり、大変便利になった。
新幹線は速くて素晴らしい乗り物ではあるが、今回は、遅い乗り物にスポットライトを当てたい。これからは遅い乗り物が面白いのではないかと思うからだ。
子どもの頃に買ってもらった乗り物の図鑑では、超音速の飛行機が飛び、大都市間はリニアモーターカーで結ばれるという未来予想図が描かれていたことを思い出す。
戦後の高度成長期以来、乗り物の世界は少しでも速く、少しでも遠くという機能競争に明け暮れてきた。しかし、速く移動できることが当たり前となり、移動に関する価値の質的な変化が起き始めているように思う。
電気自動車に挑戦している人間が言うのもおかしいが、乗り物の中でいま最も面白いのは鉄道ではないだろうか。
鉄道は動くレストランに
駅は夜10時まで営業しているデパ地下に
JR九州が始めたクルーズトレインの「ななつ星 in 九州」には驚かされた。これまではクルーズトレインと言っても、トワイライトエクスプレスに代表されるように、ちゃんと目的地があり、その目的地までを鉄道で移動しながら豪華な食事を楽しむというのが主なコンセプトだった。
しかし、ななつ星は博多から出発して博多に戻るというのが標準的なコースであり、「お客を目的地まで運ぶ」というこれまでの鉄道の常識を完全に覆してしまった。
加えて、3泊4日の旅程において、九州各地の景色、食事、文化などを楽しみ続けるという、地域の魅力を再発見する旅行商品になっているという点も非常に斬新だと思う。
ななつ星の登場によって、「A地点からB地点までを速やかに移動する」という鉄道の常識は覆され、線路が張り巡らされている各地域の魅力を列車の上で味わう「動くレストラン」、あるいは「動くホテル」という鉄道の新しい定義が追加されたのだ。