あれから20年以上の歳月が経過した。数年後に帰国したY医師は今や、世界でも名を知られる存在となり、差別せず、最善の治療を行うことをモットーに診療に励んでいるが、日本の医療機関の現状はどうだろう。

「実は、HIVに対して最も差別的なのは、医療と福祉の現場です。統計では、HIV陽性者の勤務先業種の割合は「医療・福祉」が14%でトップなのですが、差別的な環境の中で労働者としても患者としても、苦境に立たされている方が大勢います」

 顔を曇らせて語るのは、HIV/エイズとともに生きる人たちがありのままに生きられる環境(コミュニティ)を創り出すことをめざして活動する特定非営利活動法人・ぷれいす東京の代表・生島嗣氏だ。

40ヵ所以上で
拒否された透析患者も

 無論、HIV/エイズを理解し、積極的に患者の治療やサポートにあたる病院も全国にある。

 国立国際医療センターのエイズ治療研究開発センターを頂点に、全国8ヵ所にブロック拠点病院、その下に59の中核拠点病院があり、更にその下に380ほどの拠点病院が認定されている。ブロック拠点病院ではHIV感染者、エイズ患者の治療のために全身症状から呼吸器、消化器、眼科、神経科、歯科など全科の診療が可能だ。

「すっかり改善されたようですが、かつてはそうした病院でも、感染症科以外の診療科では、診療拒否がありました。 HIV感染者もいろいろな病気になり、いろいろな科を受診しなければならないわけですが、同じ病院内でも断られていたのです。今は普通に診てもらえるようになりましたが、かつては医師もナースもためらいや恐怖心があったようですね」(生島氏)

 しかも、一般医療機関や福祉施設では、今も受け入れを拒む施設が決して少なくない。

 特に問題になっているのが、歯科診療と透析治療の現場だ。

 例えば2014年には、高知県内の歯科クリニックがHIV陽性者の治療を拒否した事例が大きく報道された。