『世界市場で勝つルールメイキング戦略』 技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか 國分俊史、福田峰之、角南 篤 編著 朝日新聞出版 256p 2000円(税別)

 英語の“Innovation”は、かつては「技術革新」と訳されることが多かった。最近ではカタカナの「イノベーション」という表記が定着しているが、今でも「新しい技術の開発」を意味すると思っている人が多いのではないだろうか。

 確かにイノベーションは、新しい技術や、それを活用した革新的な商品やサービスを意味することが多い。だが、本来のイノベーションは、それだけでは不十分だ。

 新しい製品やサービスを投入することで新たな市場を形成し、社会に大きな変化をもたらすまでがイノベーションといえる。新技術開発だけではなく、それを社会に浸透させていくプロセスも欠かせないのだ。

 たとえば「自動運転車」のイノベーションには、センサーによる情報収集や、車体のコンピュータ制御のアルゴリズムなど、さまざまな技術革新が必要になる。

 しかし、完成した自動運転車を公道で走らせるには、既存の交通法規を変えなければならない。さらに、自動運転車が事故を起こした場合に、その責任は運転手とメーカーどちらにあるとするべきか、といった議論も避けられないだろう。

 それらを含む新たなルールづくりをしていかなければ、自動運転車のイノベーションは完遂できない。

 つまり新しい技術で製品やサービスが実現可能な状態になっても、それを利活用するためのルールがなければ市場が形成されず、せっかくの新製品・サービスも、世の中に出ていくことができないまま終わる。

 本書の3人の編著者は、多摩大学ルール形成戦略研究所に所属している。この研究所は、官民から多様な経験を持つメンバーを集めて2016年6月に設立されたばかり。

 設立の目的は、「ルール形成戦略」という新しい学問分野に関する知見を集積し、社会課題解決型イノベーションを促進することである。