自動車業界が頭を悩ませる問題が浮上している。自動車整備士の人材不足があらわになっているのだ。今後、電動化や自動運転といった先進技術に対応できなくなる零細の整備工場が増えるのは間違いない。行政や業界の無為無策が続けば、自動車の安全性を揺るがす問題につながるだけに事態は深刻だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)

日産横浜自動車大学校の授業風景。車好きではないという学生も増えており、かつてとは様相が異なる Photo by Akira Yamamoto

「10年後には整備不良の車が公道を走りかねない」。ある自動車メーカー社員は、そう危機感をあらわにする。

 自動車業界では近年、整備士不足の問題が深刻化している。自動車整備士とは、車をメンテナンスする技能を持つ国家資格保有者のことをいう。

 ここ5年は、整備士数は34万人強とほぼ横ばいで推移しているが、問題なのは次代の担い手がいないことだ。新たに整備士資格を取得した人数は2014年に約2万9000人。08年と比べて3割も激減している。整備士全体の高齢化も急速に進んでいる。「整備士へのメーンルートである整備専門学校でも、若者の入学者が激減しており、ディーラーは採用に苦戦している」(今西朗夫・日産・自動車大学校学長)と打ち明ける。

 整備士を志す若年層が減っている理由の一つは、過酷な労働環境にある。残業時間が長い上に、国土交通省の調査によれば、「賃金に不満を持つ整備従業員は6割以上」とかなり高い水準にあるのだ。

 もちろん、業界とて手をこまねいていたわけではない。日産東京販売ホールディングスの酒井信也社長は、「業務の平準化によって、整備士の働き方はかなり改善された」と言う。予約制の導入や営業方法の改善によって、月末に集中していた検査車両の入庫を期間の偏りなく引き受けることで、整備士の残業時間を短縮したのだ。