一方でNAFTA(北米自由貿易協定)など、既存の多国間自由貿易協定の枠組みを変えるといったことが万一起きると、そちらのほうが国や企業の活動にダイレクトにダメージを与えます。世界の貿易ルールにしても、米国が一方的にそれを変えようとすれば、WTOを巻き込んだ問題になる。だから、TPPよりも今ある枠組みへの影響を考え、対策を考えることのほうが重要でしょう。

――トランプ氏が保護主義政策をとった場合、日本経済にどんな影響が及ぶでしょうか。

 前述のように、そうなるかどうかは米国内の経済運営次第だと思います。マーケットの期待通りに米国経済が加速すると、米国内の企業活動が活性化し、保護主義をとる必要がなくなるので、日本の輸出にとってプラスになります。またトランプ氏はドル高を批判していますが、景気上昇局面での通貨高なら容認するでしょう。

 逆に経済運営に失敗すると、日本に対する為替介入などが激しくなる可能性はあります。ただ1980年代の日米貿易摩擦のようなことが起きるとは考えにくい。かつてと違い、サプライチェーンがグローバル化するなかで、経済合理性を無視した政策は、米国自身を困らせることになるからです。

日本は日米安保の交渉で
「お金」に振り回されないこと

――もう1つ、日本にとって不安なのは安全保障です。日米安保の堅持を望む日本にとって、選挙戦時にトランプ氏が言及した米軍駐留費の増額については、難しい対応が迫られそうです。今後の見通しはどうでしょうか。

 トランプ氏自身は日米安保について深い知見をもっていないはずだし、彼の主張は1980年代から変わっていません。ただ、日本をはじめとする同盟国への駐留費増額要求は、TPPからの脱退、メキシコ移民への厳しい対応などと同じく、彼がこだわりを持ってきた政策。今後日本に対して交渉材料にする可能性はあります。

 日本が意識すべきことは、もしそうなったとしても、「いくら出せばいいのか」といったお金の話に深入りしないことです。そもそも日米安保は損得勘定では計れないもの。維持する価値がある重要な同盟だということを、日本はトランプ氏や米国の外交筋の人々に、根気よく説明しなければいけません。改めて日米同盟の意義を再確認する、ちょうどよい機会とも言えます。

――日米関係の行方は、トランプ新政権と各国とのパワーバランスにも左右されそうです。たとえば、米国と中国、ロシアとの関係はどうなるでしょうか。

 米ロ関係については、トランプ氏とロシアのプーチン大統領は気が合いそうだと報じられています。ただ、どこまで米国がロシアと関係性を強化したいと思っているかどうかわからないし、ロシア内にも懐疑論があります。