次々と起こるイノベーションにより、身の回りの生活が大きく変わろうとしている。とりわけ、人工知能(AI)の影響が大きい。AI化する社会の変化にどう備えるべきか。数々の起業に関わってきた孫泰蔵氏と、AIの産業構造について詳しい安宅和人氏に語ってもらった。(聞き手・構成/本誌・小島健志 週刊ダイヤモンド12月31日・17日合併号特集「総予測」より)

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──2016年、IT業界において、どのようなニュースが印象的でしたか。

 16年4月、エストニアにあるfunderbeam(ファンダービーム)というスタートアップ(ベンチャー企業)が画期的なマーケットシステムを生み出しました。

 簡単に言いますと、上場会社の株式も、非上場のスタートアップの株式も、権利の売買を通じて、全く同じ市場の中で取引できるようにしたのです。

 この核となるのがブロックチェーンの技術です。詳しい技術の話は省きますが、肝となるのが、証券取引に必要な巨大なサーバーを不要にしたことです。

 そのため、なんと取引手数料が基本ゼロ。もうかったときに限り、もうかった分の1%だけを支払えばよく、損したらゼロでいいと。

 しかも、この女性創業者、エストニアの電子政府化(eエストニア)を推進していたコアメンバーの一人で、かつナスダック・エストニアのCEOだった人です。体制側だった人物が、真っ向から既存の金融システムをぶっ壊そうとしているのです。

 これにより、上場審査も、証券会社も不要とし、ベンチャーキャピタルのような目利き集団すらも必要としない。しかも国境を超えて取引できると。

安宅 驚きましたね。ブロックチェーンでそこまでできるとは。

 私も最近知ったばかりで、まだ無名です。ただ、資本市場の全てのプロセスをひっくり返す可能性を秘めていて、しびれました。