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密入国を斡旋する業者たちの原資は
外国人の誘拐ビジネスで稼いだ身代金

 テクノロジーが進化し、世界中の人たちは密接につながりだした。人類には、太古からのナレッジだって十分に溜まっている。それでも世界情勢は安定せず、中東をめぐる問題は予断を許さない状況が続いている。

 とりわけ深刻なのが、大量の難民が雪崩をうったようにヨーロッパへ流入し、深刻な社会問題を引き起こす可能性が高いということだ。驚くべきことに、このヨーロッパへ流入した難民の90%が犯罪組織に頼ってやってくるという。そして密入国を斡旋する業者たちの原資が、外国人の誘拐ビジネスで稼いだ身代金であったというから話は穏やかではない。

『人質の経済学』
ロレッタ ナポリオーニ/村井 章子(訳)/池上彰(解説)
文藝春秋
308ページ
1750円(税別)

 本書『人質の経済学』は、そのデリケートさゆえにあまり報じられることのない誘拐ビジネスや人質交渉の舞台裏を起点に、グローバル化した世界経済の闇の部分を描き出した一冊だ。著者はテロ・ファイナンスを専門とする女性エコノミスト。犯罪ネットワークの全貌や歴史的な背景を知ることで、センセーショナルさだけに目を奪われていては決して見えてこない問題の本質が見えてくる。

 それが善であれ悪であれ、世界を股にかけて大きな事を成そうと思ったら、インフラを最大限に活用することが必須となる。誘拐ビジネスのときにも、そして密入国斡旋のときにも、重要なインフラとなったのが、アフリカのギニアビサウからサハラ砂漠を縦断してヨーロッパへ流れる道であった。ここは古くからタバコ、大麻など、ありとあらゆるものを密輸するうえで成功率の高いルートとして知られていた地域でもある。

 この地域にダークサイドのイノベーションが起こったのは2003年のこと。サハラ周辺で密輸していた武装グループが、ヨーロッパ人32名を誘拐した。この時ヨーロッパ各国の政府が支払った莫大な身代金の一部を元手に「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」が設立されてしまう。