
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第56回は、「かけ算の順序問題」について考える。
「正解」「不正解」それぞれの主張は?
東京大学現役合格のため、数学を一から勉強しなおすことを決めた天野晃一郎と早瀬菜緒。最初に取り組むべき課題として渡されたのは、小学校2年生の足し算・引き算だった。
小学校の算数と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、かけ算の順序問題である。「りんごが5個入っている箱が6個あります。りんごは全部でいくつあるでしょう」というような問題があったとする。もちろん、答えは5×6=30より「30個」である。ただこれを、6×5=30とした場合は正解か不正解か、という問題である。
これを正解、とみなす立場によると、「順序が違っても答えは同じだからいいのだ」という主張が多い。対して不正解、とみなす立場は「1つ分×いくつ分の原則に従うべきだ」と主張する。
はじめに断っておくが、私はどちらの主張が正しい、というつもりはない。現に文部科学省が定めた小学校の学習指導要領(2017年改訂)には、こう書かれている。
「被乗数と乗数の順序は、(中略)日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい」
これを読む限り、どちらかに固執する必要はなさそうだ。むしろ私は、この問題がずっと議論され続けていることに興味がある。
確たる発端は確認できなかったが、どうやら1972年の朝日新聞の報道をきっかけに全国に広がったらしい。
SNSで大激論になるワケ

大抵の場合、この問題は「6×5=30、と書いたら教師がバツをつけた」というSNSの主張から再燃する。もはや風物詩といってもいい。その出来事が本当かどうかさえわからないし、仮に本当だとしてもSNSにアップしたから解決するというものでもない。
思うに、「教師という四角四面の規則に縛られた権威」「偉そうにしているが本質を理解していない(であろう)先生という存在」に対する反発なのだろう。そのはけ口として、この問題が利用されている側面もあるのではないか。
これは、教員が言う「正解」を絶対として、追随することを是とする内申点至上主義への批判とも通じるところがある。
この論争に関する一番の問題は、「正解か不正解か」というところで議論が盛んになることだ。特にSNS上では、誰もが理解できる「かけ算」の話題は可燃性が高い。だからこそ、単純な二極化や教師・学校批判に終始してしまう。
本当に考えるべきことは、「順序が示す意味を理解していなかった児童」や「順序を変えても同じだ、ということに気づいた児童」への個別の指導方法なのではないだろうか。順序問題の正解・不正解についてはどちらでもいい、と書いたが、少なくともこの2パターンの児童が存在することは想像に難くない。
ちなみに、陸上をやっていた私としては、「4×100mリレー」という表記がどうにも納得いかなかった。この議論に従うならば「100m×4リレー」が正しい表記のはずだ。
記事を書くにあたって学習指導要領をみてみると、その答えがわかった。どうやら、西洋語圏では数詞を前に書く習慣があるらしい。棚ぼたの雑学ではあるが、調べてみるものである。

