「2%インフレ」を確約する
オーバーシュート型コミットメント

YCCとともに重要な日銀の政策変更が、オーバーシュート型コミットメントである。これは政策目標である「インフレ率2%」が実績値ベースで数カ月にわたって達成されたあとでも、日銀が金融緩和を継続すると約束するものだ。

通常のインフレ目標の枠組みでは、目標値は達成目標であると同時に、急激なインフレを避けるための「上限」としても見なされる。そのため、インフレ率が目標に達すれば、その時点で中央銀行は引き締めに転じるのが基本だ。一方で、今回の「オーバーシュート型コミットメント」は、インフレ率が2%よりも上振れするのを日銀が許容する用意があるということを意味しており、早期の目標達成により強くコミットする姿勢を明示したものにほかならない。

こちらの政策についても、日銀からのかなりわかりやすいメッセージを曲解して、「日銀の金融政策は持久戦に入った」などと断定する的外れな評価が日本のメディアには見られた。オーバーシュート型コミットメントは、日銀が能動的にインフレ期待を押し上げて、2%インフレ達成の時期を前倒しすることを本来の狙いとしている。

これら2つの新フレームワークの効果は、トランプ相場の到来によって見事に示された。また、2016年12月末にFRBが2回目の利上げを決めたが、それでも日本の長期金利がゼロ近傍に抑えられたままなのは、YCCによって長期金利をゼロ誘導した結果である。まさに時宜を得た日銀の深謀遠慮と言うべきだろう。

なお、予告的に言えば、今後の連載で解説する予定の「トランポノミクス」が加速していくなかでも、これらの新政策は日本経済にとって重要な意味を持っている。

[通説]「マイナス金利の大失敗。日銀・政府はもう手詰まり」
【真相】否。2つの大きな「政策転換」が再起動のカギ。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。