マイルド&失敗のない「投資の王道」とは?

とはいえ、いまさら慌てて資産運用の情報をかき集めることはお勧めしない。多少の損をする可能性があっても株式や外貨で稼ぎたい人は、これまでもすでに売買をしているはずだし、これから新たに投資をはじめたい人はそうすればいい。

一方、私がこれからお伝えしたいのは、これまでその種のリスク投資に意識が向かなかった大多数の人にこそ有用なことだ。「経済が正常化すれば、資産運用の発想が必要になる」とは、複雑なチャートや企業の財務情報とにらめっこしながら投資判断を下すスキルが不可欠になるということではない。そうした短期的な売買を万人に推奨するつもりはないし、この分野には性格的な向き不向きもあるだろう。

一方、政策転換などに基づいた大きなトレンド把握なら、必要最低限の知識・情報さえあれば、さほど判断は難しくはない。とくに経済が正常化するまでの過渡期にあたるこれから数年間は、非常にシンプルな枠組みのなかで手堅く運用がしやすい状況が続く。経済政策への正しい理解をもとに、適切なリスクテイクをしていくことこそが、多くの人にとって有効な、マイルドかつ失敗のない資産運用の王道である。

※参考
日本株マーケットは「異常」だからこそ儲けやすい
―ドル円相場と日経平均株価はなぜ連動しているのか?
https://diamond.jp/articles/-/116543

その際に気をつけるべきは、経済メディアからの雑音である。これまで見てきたとおり、とくに日本のメディアが流す経済情報は、必ずしも真実を伝えていない。「野菜不足」とか「異端児大統領」といった目先の「わかりやすい情報」に流されず、経済理論の基本的なフレームに基づいて自分の頭で考えていく姿勢が欠かせなくなる。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。