3月30日、NTTグループは、東日本大震災で被災した固定電話と携帯電話のネットワーク設備について、4月中に通信機能がほぼ回復できる見通しを明かした。

ゼロベースのインフラ再設計は固定電話から携帯電話にシフト 震災で寸断された通信ケーブル。宮城県七ケ浜町では、電話局が建物ごと500m先まで流された

 NTT持株会社の三浦惺社長は、「まだ、被害の全体像がわかっていない。被害額についても把握できていないが、阪神・淡路大震災に比べて、かなり大きな復旧費が必要になる」と語った。

 3社合同会見に同席したNTT東日本の江部努社長は、「(東京電力の原子力発電所周辺を除いて)現在機能停止中の45ヵ所の電話局を4月末までに回復する」と表明し、NTTドコモの山田隆持社長も、「現状で未回復の307基地局のうち、4月末までに主要な248局を復旧する」と力を込めた。

 NTTは、震災直後に災害対策本部を立ち上げ、1万人を超える体制で設備やサービスの復旧作業に当たったことで、被災した電話局や基地局の機能を90%以上回復するなど、底力を見せつけた。

 ただし、三浦社長が、「当面の復旧」と「本格的な復旧」を区別して説明したように、現在は急場をしのぐ応急処置がすんだ段階にすぎない。今後は、本格的な復旧が焦点になる。

 そこで、通信業界関係者のあいだで注目を集めているのが、数年前に登場した“コンパクトシティ”や“スマートシティ”などの「新しい街づくりの概念」だ。

 たとえば、コンパクトシティは、高齢化と人口減少が進みながらも、広大な土地に集落が点在する過疎地対策として出てきた構想で、街全体を機能別に区分けして再設計し、住民の利便性を上げることを目指す。一方で、スマートシティは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを軸にして、家庭や企業と発電所などを通信で結んで次世代の情報インフラをITで制御するという構想で、スマートグリッド(次世代送電網)が中核になる。総務省や経済産業省も色気を見せる新領域だ。

 すでに、被災地の本格的な復旧に向けた動きが水面下では始まっている。津波の猛威で街の機能の多くが流されてしまった被災地では、ゼロベースで街のインフラを再設計する必要がある。NTTは、現時点では明言を避けるが、新たな通信インフラは携帯電話がベースになるとの認識でいる。

 たとえば、通信インフラが未整備の発展途上国では、最初に大型の無線基地局を建て、通信を確保する。固定通信は、遠隔地を結ぶ黒衣に回る。そのほうが、効率がよいし、いまや固定と無線を分断する政策は、実情に合わない。

 今回の震災では、被災者のプライバシーを守れるのは、特設公衆電話(固定電話)ではなく、肌身離さず持ち歩く携帯電話だという実態が判明した。携帯電話のGPS機能を生かせば、被災者の所在を突き止められるし、行方不明者も減らせる。NTTが温める“発展途上国方式”は、過疎に悩む地域にも応用できるので、今後は官民を巻き込む攻防戦が本格化するだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)