日本ではなかなか新しい産業が育たない、と言われる。ベンチャー企業がなかなか出てこない、とも言われる。必要なところにもっとお金が流れれば、という声もある。だが、いくら嘆いたところで、銀行を変えることはできない。お金の使い道を決めるのは銀行自身だからだ。銀行の担当者なのである。そして、銀行は危険を冒すことが許されない。預金者が知っておかなければいけないことは、預金をするということは、その使い道に預金者の意思は反映されない、ということなのである。

 郵便局の貯金も同じだ。国には無駄遣いをしてほしくない、あんな無駄な道路やダムや空港はいらない、補助金など出してほしくない、と思ったところで、その大部分は国に流れていく。お金の使い道を決めるのは、国なのである。

 少子高齢化で日本は未来が危ぶまれている。もっと国が成長できるようなお金の使い方をしてほしい、と多くの個人が思っても、その思いは簡単に現実の形にはできない。決めるのは、国なのである。預貯金者は郵便局や銀行にお金を貸している。これが預貯金の仕組みなのだ。

 そして日本という国は、こうした〝お金の出し手が自分でその行き先を決められない〟〝銀行や国がその行き先を決める〟預貯金の割合がいびつなほどに大きな国であることが世界的に知られている。日本の個人金融資産に占める現金・預金の割合は、実に55.8パーセントにもなる。同じように、〝お金の出し手が自分でその行き先を決められない〟保険・年金を合わせれば、実に83パーセントにもなる。

 松本さんは、こうしたお金の流れと、お金をめぐるおかしな現実に、次第に気づいていったのである。

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この連載は『預けたお金が問題だった。』(上阪徹著、ダイヤモンド社刊)を基に構成されています。

 

 

 

 

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