英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は放射性物質を含む汚染水についてです。日本が低濃度の汚染水を意図的に放出したことは、英語メディアでも大きく取り上げられました。私が見た限りはおおむね冷静で、何というか、「おいおい」と言いたいのをこらえて慎重に注視しながら懸念しているという、淡々とした論調でした。そうして被災地の外にいる(自分も含めた)人の目がついつい原発に向かってしまう中で、被災地の被害を忘れてはならないと訴える記事が、強い印象を残したのです。(gooニュース 加藤祐子)
海に汚染水を出して
これを書いているのは4月12日午後、政府が福島第一原発事故の評価を国際的な事故評価尺度(INES)で「深刻な事故」とされるレベル7に引き上げた直後です。しかし「チェルノブイリに匹敵、しかし放射性物質の放出はチェルノブイリの10%」というその意味について、例によって理解や評価が混乱しているようなので、この分野にまったく詳しくない私は脊髄反射は控えて、これについてはまた別途触れることにします。
さらに、震災発生から1カ月たってもなかなか改善しない被災者の状況を、淡々と伝え続ける米『ニューヨーク・タイムズ』のマーティン・ファクラー特派員や、原発から半径20キロ以内の避難圏(exclusion zone)から報告した米『ニューズウィーク』記事など、被害の実情を伝え続ける優れた記事もたくさんあり、それを次々とご紹介したい気持ちもあります。
私は自分の知識不足のせいで誤情報や誤訳を流してしまうのが本当に怖いので、できれば原発事故の評価についてはなるべく触れたくない気持ちさえあります。けれども、ここ1週間を振り返る形で取り上げるべきはやはり、福島第一原発からの「放射能汚染水の放出」だろうと思っています。なので、自分にできる限り間違わないよう注意しながら、間違わない範囲で、英語メディアがどう伝えたかをご紹介します。
とは言うものの記事が多すぎて網羅は無理なので、自分が日頃から参考にしているメディアの記事を並べます。なぜ自分が日頃からこの各社を見ているかというと、いわゆる「信頼されているクオリティメディア」で、政策決定につながる世論形成に影響を与えるからです。もちろん「世論形成」という概念を皮肉な目で見るなら、タブロイド紙やその手の扇情的なニュース番組を観た方がいいのかもしれませんが、それはあまり相互理解の役に立たないと思うので。
ご承知の通り東京電力は4月4日夜、高濃度の放射性物質を含む汚染水の貯蔵先を確保するため、低濃度の汚染水約1万1500トンの海への放出を開始。放出は10日まで続きました。これ以前に2号機取水口付近からはすでに高濃度の汚染水が流出していたのですが、これは6日午前5時半すぎに止まったとのことです。
とはいえ、打撃を受ける各地の漁業関係者はもとより、近隣諸国への説明が不十分だったのは、弁明の余地がなく、韓国政府が「日本政府に対し、正式に憂慮の念を伝えた」(読売新聞)ことも、ロシア大使が「『知らせを受けたのは放出が行われた後だった』と述べ、日本側の情報伝達の遅れに不満を示した」(読売新聞)のも、ロシア外務省が「日本がすべての関係国に対し全面的に情報提供し、さらなる汚染水の海中放出を避ける措置を取るよう望む」と声明を発表した(読売新聞)のも、中国『人民日報』がこうした場合に日本は速やかに通報ないしは協議すべきだと批判したのも、ウィーンで開かれていた原子力安全条約再検討会議で参加各国が懸念を表明(読売新聞)したのも、当然のことだと思います。こうした批判に対し、枝野官房長官が不手際を謝罪したのも、また当然のことだと。
誰だって言いたいです。ちょっと、もう勘弁してよ!と。
国際法違反なのかどうか
では、英語マスコミはどう伝えたのか。
5日付の『ニューヨーク・タイムズ』は「日本が低レベルの放射性汚染水を海に放出」という見出し記事で、「高濃度の汚染水を貯蔵するため」、「汚染水を取り除いて作業をしやすくするため」と理由を淡々と説明。またその結果について枝野官房長官が海洋生物への影響を監視するよう東電に指示したことや、東電が「地域の魚を毎日食べ続けると0.6ミリシーベルト、ないしは日本人の平均年間被曝量の1/4に相当する」と説明したことに触れた上で、「海中の放射性物質の量が上昇している。事態はさらに悪化し続ける」という水口憲哉・東京海洋大名誉教授のコメントを紹介しています(教授のコメントは私が英語から日本語にしました)。
記事はさらに、放射性セシウムは半減期が30年と長く、小魚を食べる魚の中で蓄積されるため、問題が長引きそうだが、半減期の短い放射性要ヨウ素などはそれほど心配する必要はないとも書いています。
米紙『ワシントン・ポスト』も同日付の記事で、東電が「もっと危険な放射能汚染水を貯蔵するため」に低濃度汚染水を太平洋に「dumping」しはじめたと報道。また福島で記者団に説明した東電幹部が、「地元の方々に大変な思いとご不便をおかけしているのに、さらなる困難を強いることになり、とても申し訳なく思っている」と涙をこらえながら謝罪したとも書いています(この東電幹部の発言も、私が英語から日本語にしたものです)。
そして同じ『ワシントン・ポスト』は同日付で「アメリカ人は心配無用、連邦政府の保健担当者」という記事を掲載。「何の防衛策も必要ないし、どの食品を避ける必要もない」と、米疾病予防管理センター(CDC)や米食品医薬品局(FDA)など8つの関連政府機関が共同声明を発したと伝えています。
記事によるとフリーデンCDC長官は報道陣に「アメリカでごくごく低レベルの線量が検知されなかったら、その方が驚く。それはむしろ、計測機器がいかに敏感にできているかという話だ」と述べた上で、日本から距離もあり海中で薄められるため「国民の健康に影響が出るような量がアメリカに届くとは考えていない」と発言したと。
フリーデン局長はさらに、アメリカ各地でヨウ化カリウムを飲んでから「毒物対策センターに電話をしてきた人たちがいるそうだ」と触れ、「はっきり言っておきたい。アメリカでは現時点で、ヨウ化カリウムを飲む理由はまったくない」と断言したとのことです。
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