この病気は心因性の疾患であり、むろん、ぜんそくではない。当然、ぜんそくの治療は意味がない。「吸入ステロイド」は効かないし、「経口ステロイド」も百害あって一利なし。

谷口正実(たにぐち・まさみ)
国立病院機構 相模原病院 アレルギー科・呼吸器内科/臨床研究センター長。
1981年、浜松医科大学卒業。88年、藤枝市立病院呼吸器内科医。94年、藤田保健衛生大学 呼吸器アレルギー内科講師。97年、米国バンダービルト大学肺研究センター研究員。99年より、国立相模原病院に赴任。アレルギー科医長・気管支喘息研究室長、同内科系統合診療部長、同臨床研究センター病態総合研究部 部長を経て、2014年より現職。

 治療効果が見られない時点で違う病気を疑うか、自分の手には負えないと判断し、相模原病院のようなアレルギー治療を得意とする専門機関を紹介してもらっていれば助かっていただろう。

 だが、彼女の主治医は、そうしなかった。

 経口ステロイドをどんどん増量し、後戻りできないほどのダメージを与えてしまう。

 結局、手の施しようがなく、女性は数年後に亡くなってしまった。

「ステロイドをどんどん飲まされると、患者さんは太るだけでなく、骨粗しょう症で骨折してしまいます。そうなるともう対応できません。うちに回されてくる患者さんは、骨折して、車イスで来る方が結構います。誤診でなかったとしても、長期間、ステロイドを大量に服薬するのは危険なのです。ぜんそくの患者さんはもともとあまり運動しない方が多いので、骨がもろくなりやすい。そのため数年で、ボロボロになってしまいます。悲惨ですよ」

95%が誤診!アレルゲンを特定しないまま
安易な治療をする医師が多い

 アレルギー疾患、とりわけぜんそくのエキスパートである谷口医師のもとには、「難治性ぜんそく」と診断された重症の患者ばかりが全国から送られてくる。

 驚くのは、「それらの95%は誤診」という事実だ。

「ぜんそくの診断・治療はそれだけ難しいということです。うちに来る患者さんは、アスピリンぜんそくやアスペルギルス(重症のカビアレルギー)といった難治性ぜんそくの方ばかりではありませんよ。慢性気管支炎のような他の病気も併発しているのに見逃され、ぜんそくの治療だけやってきたために症状が悪化してしまったという方が本当に多い。

 多くの医師が、診断結果は1つと思い込んでいるのもよくないと思いますね。高齢者の場合、3つ4つの病気を持っているのは普通です。それらを的確に解析して、この方の症状の3割はこの病気、4割はぜんそく、といったように診断できなければ、適切な治療はできません」