今回の場合、「夫が妻に対して婚姻費用として毎月30万円を再度同居する月もしくは離婚する月まで支払う」という約束を、家庭裁判所(婚姻費用分担の調停)を通して書面化しておいたのが功を奏しました。裁判所が発行した書面(調書)があれば、約束した生活費が期日までに支払われない場合、夫の財産を差し押さえて未払い分を回収することが認められています(民事執行法22条)。

債務が婚姻費用の場合でも
診療報酬が差し押さえの対象に

 さらに12年前に判例の変更があり(平成17年12月6日、最高裁判決)債務が婚姻費用の場合でも、クリニックが法人成りしていない場合、「診療報酬」が差し押さえの対象に加えられることになりました。

 クリニックは患者に診察や治療等を行うと、患者が国民健康保険の場合は国民健康保険団体連合会、社会保険の場合は社会保険診療報酬支払基金に対してレセプトを提出します。そうすると連合会や基金がクリニックに対して、レセプトに記入した額の診療報酬を支払います。そこで裁判所は連合会や基金に対して、クリニックに診療報酬を支払う前に、妻(裕子さん)の口座に未払い分を振り込むよう命じてくれます(=債権差押命令)。

 いわゆる天引き状態を実現することが可能で、しかも1度、差し押さえの手続を踏めば、最終回(再度同居する月もしくは離婚する月)まで自動的に天引きされるので非常に便利です(民事執行法152条2)。あくまで裁判所と連合会や基金とのやり取りで、いわゆる天引きを行うので、債務者(夫)は邪魔のしようがありません。今回の場合、夫は翌月の生活費として30万円を振り込んだだけで、過去6ヵ月の生活費は手つかずのままだったので、そのことを理由に、すぐに差し押さえの手続に踏み切ることが可能でした。裕子さんは早速、債権差押命令の申立書を記入し、必要書類を一緒に地方裁判所へ提出したところ、裁判所はすぐにクリニックに対して差押命令の通知書を送付してくれたのです。

 今回は無事、診療報酬の差し押さえに成功し、長期安定的に生活費を確保することができたので、娘さんを引き続き、私立の中学校へ通わせることが可能になったのです。

 このように裕子さんは異常性格の夫に悩まされ続け、今回、ようやく夫に一矢報いることができたのですが、おかしな人が医者になるのか、医者になるとおかしくなってしまうのか…「鶏が先か卵が先か」に思いを馳せても仕方がありません。裕子さんの夫のように、医者が「学会だから」と嘘をついて不倫の旅行を仕事の出張にすり替えるケースは、決して珍しくはありません。