政界汚職や経済事件など、深刻な不正を取り締まる役割を担うが、警察官ほど市民に身近ではない検察官(検事)。退職して弁護士に転じた新旧「ヤメ検」への取材を基に、実像をレポートする。(週刊ダイヤモンド2017年2月25日号の第1特集は「弁護士 裁判官 検察官 司法エリートの没落」。法曹3者がそれぞれ抱える環境変化への苦悩を追った)
検事は超難関の司法試験に合格し、司法修習を経て任官する。頭脳明晰なのは当然として、他にどんな特長が求められるのか。それはバブル期前後で大きく変わったようだ。
バブル崩壊前までは弁護士の方が極めて待遇が良く、検事は「売り手市場」。例えば1993年任官の市川寛弁護士は「バブルの残り香があって、渉外弁護士がやたらお金をもらえる時代だった。僕の前後が検事採用の厳冬期だったと思う」と言う。「健康で普通の正義感があれば誰でもなれた」と振り返る元検事もいる。
一転、バブル崩壊後は公務員人気の高まりで「買い手市場」。司法制度改革以降は弁護士就職難もあって、安定志向を腹の内に抱えた若者も門をたたいている。近年倍率が3倍を超えた年もあったとか。優秀な人材は大手弁護士事務所、裁判所との綱引きになっている。
法科大学院修了の若手ヤメ検は「成績上位なのは必須で、証拠の見立てとかセンスがないと肩たたきに遭う。飲み会の幹事を買って出るなど『体育会系』を必死にアピールした」と振り返る。
晴れて任官できたとして、その後はどんな教育を受けるのか。
「容疑者の自白がすべて。上司からの言葉は『とにかく割れ』だった」と振り返るのは市川弁護士。しかし裁判員裁判(2009年~)、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件(10年)を経てだいぶ変わってきたようだ。若手ヤメ検は「自白がとれるに越したことはないが、それよりも客観証拠。良い証拠を集めるよう警察に指示することを教育された」と話す。
キャリア形成はどうなっているのか。法務省を中心に進む「赤れんが組」と、特捜部中心の「現場組」が二大勢力と言われてきたが、「裁判員裁判が始まって変わってきているのでは」と話すのは1989年任官の落合洋司弁護士だ。例えば特捜部に行ける能力がある人でも、証拠改ざん事件で特捜部にネガティブなイメージが付いたこともあり、「若い検事で公判部希望者が少なくないと聞く」という。