元エリート裁判官として、裁判所や裁判官の内幕を告発し続けてきた明治大学教授の瀬木比呂志氏。その瀬木氏が昨年10月、本格的権力小説『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社)を上梓した。そこで描かれたのは、最高裁の知られざる深い闇だ。(週刊ダイヤモンド2017年2月25日号の第1特集は「弁護士 裁判官 検察官 司法エリートの没落」。法曹3者がそれぞれ抱える環境変化への苦悩を追った)
「保守本流を自称する国民党、頑迷な国粋主義者までいる国民党は、実はさ、アメリカに頭が上がらないその忠犬。(中略)最高裁は、そんな政府のそのまた忠犬」――。
小説「黒い巨塔」に登場する全国紙社会部記者の鳥海景子が、主人公であるエリート裁判官の笹原駿に吐露するセリフだ。
舞台は1980年代後半。最高裁事務総局に在籍する笹原らは、事務総局主催の「裁判官協議会」で原発訴訟の安全審査を厳正に行うべきと主張するが、行政寄りの多数派に押し切られてしまう。
そこで笹原の同僚で現場において原発訴訟に携わる裁判官が、原発行政訴訟に関する論文を書き、マスコミにもリークしようとするが、「国民党」や最高裁の圧力で掲載見送りとなってしまった。鳥海は、そんな圧力に屈した報道機関を「権力にべったり張り付いて情報をもらっている、いわば、その広報係か番犬みたいなものよ」と自嘲する。
このシーンは、「国民党」という政権与党と、裏でつながっている最高裁、そして「司法マフィア」と呼ばれる司法担当記者が、都合の悪い記事や企画を握りつぶそうとする構造を、あくまでフィクションとして描いたものだ。
原発訴訟に最高裁事務総局が
露骨な却下、棄却誘導工作
だが、実際に事務総局に在籍した経験を持つ瀬木氏は「日本の最高裁が統治と支配に関わる裁判において政府の忠犬的存在だということは、私自身の考えでもある。裁判所が一番怖いのは権力。最高裁が権力側の意向を強く忖度しながら動いているのは間違いない」と断言する。