金融引き締めに舵を切る欧米<br />対応誤れば景気減退リスクもEUの経済・財政相理事会で議論するECBのトリシェ総裁(左)とドイツのショイブレ財務大臣(右)
Photo:REUTERS/AFLO

  日本を置いて、欧米が “危機モード”からの正常化に舵を切り始めた。

 4月7日、欧州中央銀行(ECB)は政策金利を1%から1.25%へ引き上げることを決定した。

 米国でも3月15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、一部の委員から「年内に引き締めを始めるべき」との意見が出ている。

 背景として共通するのは、原油、食料などの高騰を主因とするインフレの進行だ。ただし、それぞれスタンスは異なる。

 欧州が警戒しているのは、原油などの高騰が賃金や物価全般に波及する“二次的影響”である。「欧州には労働市場の硬直性という構造的問題がある。景気が悪くても物価に連動して賃金が決まる仕組みになっている国が多く、放置すると国際競争力を低下させかねない」(伊藤さゆり・ニッセイ基礎研究所主任研究員)。

 引き締めによる景気押し下げ懸念もあるが、「ドイツは輸出好調に加え内需が回復しており、EU内でドイツ向け輸出シェアが大きい国も景気回復が進んでいる」(田中理・第一生命経済研究所主任エコノミスト)ため、今のところ影響は大きくないと見られている。

 むろん、財政危機にあるポルトガル、ギリシャ、アイルランドにとってはいっそう厳しい状況になる。だが、ECBはEU全体のリスクのほうが重要と判断した。今後は、3ヵ月に1度程度のペースで利上げを続け、来年初頭に2%台で打ち止めというのが多くの専門家の見方である。

 一方、米国の景気は、緩やかに回復しているものの、まだ腰が弱く、引き締めは時期尚早というのが米連邦準備制度理事会(FRB)全体の判断だ。家計と製造業の予想インフレ率は急上昇しているが、「今すぐ懸念される状況ではない。タカ派のなかには利下げのときと同様に、利上げも急速にやるべきという意見もあるが、おそらく年内の利上げはない。量的緩和第2弾を6月末に終わらせ、まず流動性を吸収したうえで、早くて来年7~9月頃の利上げとなるだろう」(小野亮・みずほ総合研究所主席研究員)。

 なお中国も4月6日、昨年10月以来で4回目となる0.25%利上げを実施したが、同国の場合は経済自体が過熱気味で、むしろこの程度の利上げでは効かないというのがリスクだ。金利上昇には家計や企業の不安感が強く、「当局が早めに利上げを終えてしまい、結果としてインフレが加速する恐れ」(鈴木貴元・みずほ総合研究所中国室上席主任研究員)がある。

 今後の焦点は、米国がどう動くかだ。拙速な利上げは景気を腰折れさせ、世界経済全体を減速させかねない。そうなった場合、特に復興途上にある日本への影響は甚大である。他方でタイミングが遅れれば、“金融の不均衡”から新興国のバブルを助長し、ひいては欧米のインフレを加速させる。

 世界の金融政策は潮目を迎えている。その、舵取りは難しい。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

週刊ダイヤモンド