社長は鼻が高いらしく、ニコニコしている。そして、
「こりゃ、山村君に任せるよ。彼はね、一番最初にそうじを始めた人間でね…」

「知ってますわ!」
  淳子が発した大きな声に、その場のみんなが驚いて淳子の顔を見た。

「山村さんがね、この春ごろだったかなぁ。うちの幼稚園の前で空缶を拾われたんですよ。それもサッと自然体で。それを酒屋さんのところのゴミ箱へ行って捨てられたのも見ていたんです」

 圭介は、もう穴があったら入りたい気分だった。あの日、生まれて初めて空缶を拾ったとこを見られていたのだ。
(しまった…あれは、気まぐれで拾った、最初の1個だったのに…)

「すごいなぁって、感心しちゃったんです。きっと、いつも拾っていらっしゃるんですよね。駅とか公園とかでも…。そういう人って尊敬しちゃいます。カッコイイですよね」

 淳子の父親の藤沢一郎が、
「ずっと淳子はこればっかり言ってましてね。実は、まだ最近のことで威張れることじゃないんですが、うちの園児たちにも園内のそうじをしてもらうことにしたんです。これがまたご父兄のみなさんに好評でして。これもみんな山村さんのおかげなんですよ…」

「それは誤解ですよ、だってあの時は……」
  と言おうとした言葉をさえぎって、
「そうなんです! 本当に、山村さんのおかげなんです!」
と淳子は圭介をキラキラした瞳で眩しそうに見つめたのだった。

 結局、今度の商店街の例会で「商店街クリーンアップ作戦」なる企画が立ち上がることになった。「詳しくはその場でお話しましょう」ということで帰っていかれた。地域を巻き込んでの活動になることに、圭介は少なからず戸惑いを感じていた。

 なにしろ、自分は、「そうじをすると売上が上がるのか? そうじをするとお金が手に入るのか?」という実験でスタートしたのである。いわば、「動機が不純」なのである。「社会奉仕」のつもりなんて、最初はまったくなかった。どうしたものかと考えていると、正平が近寄ってきて、耳元で囁いた。

「リーダー! あの娘ぜったいリーダーのこと、好きですよ。いいなぁ、あんな可愛い子、うらやましいですよ」

 圭介はまたまた赤面した。
「バ、バカヤロー。そんなわけないだろう!」
  と言うのが精一杯だった。